アイスタイルには、「日本最大のコスメ・美容の総合サイト@cosme(アットコスメ)」の膨大なデータ群を分析し、マーケティングに活用する「リサーチチーム」があります。1,700万件を超える膨大なクチコミはもちろん、アクセスデータや意識調査やインタビューを通して、消費者に触れ続けているリサーチチーム。そんな彼らの知見をご紹介します。今回のテーマは「2021年のクチコミから読み解く生活者の気持ち」です!
株式会社アイスタイルは、2021年、生活者に支持されたコスメを総括する「@cosmeベストコスメアワード2021」(以下、ベストコスメアワード)を発表しました。
コロナ禍2年目となる今年は、スキンケアアイテムが上位を占めるなど昨年に引き続き「コロナ」「マスク」の影響を色濃く受けた受賞商品のラインナップとなりました。
総合上位商品を見ると、順位こそ逆転しているものの1、2位が昨年と同じ顔ぶれであり、一見するとあまり変化のなかった1年だったようにも感じられます。
しかし、よくよく見てみると同じ商品であってもクチコミで使われるワードに変化が生じていたり、新商品も上位にランクインするなど、今年ならではの特徴もいくつか見えてきます。生活者はなぜ今年その商品を支持したのか?クチコミに加えアットコスメメンバーに対するユーザー調査を交え、この1年を振り返ってみたいと思います。
その前に、まずは今年一年、生活者がどういう心理状況だったのか振り返ってみたいと思います。2021年11月に実施したアンケートでは、「漠然とした不安」を感じるようになった(57%)が「将来への期待」を感じるようになった(21%)を上回る結果となりました。
この一年、ほとんどの期間が緊急事態宣言をはじめとする行動規制下であったことを考えると、納得のいく数値かもしれません。
直近では緊急事態宣言が解除され、感染者数も減少傾向にあり、少しずつ前を向き始めている様にも感じます。実際、@cosmeのクチコミでも、口紅の投稿が徐々に増え始めるなど回復の兆しは感じられています。
では、このまま順調に化粧品への購入意欲は伸びていくのか?アンケートからは、多くの生活者は、今もなお慎重な気持ちを持ち続けていることが分かりました。
未来のことなので、結果の解釈は人によって分かれるところだと思いますが、調査が緊急事態宣言後すぐのタイミングであることを考えると、シビアな印象を受けました。
さらには、9割が「3カ月後もマスクをしている頻度は変わらないだろう」と回答しており、マスクの影響の大きい化粧品業界にとっては、すぐにコロナ前の状況になるとは言い難いのではないかと感じています。
したがって、これから紹介することは「今年起きたこと」で終わらせるのではなく、「来年も引き続くこと」と捉えるべきだと我々は考えています。
スキンケアの特徴は、総合大賞1位の「イプサ ザ・タイムR アクア」に表れています。下記のグラフは、@cosmeに投稿された購入者のクチコミ件数を時系列に集計したものです。
2014年にリニューアル発売されており、以前から人気の商品ではありましたが、コロナ禍でさらにクチコミ投稿が増加していることがお分かりいただけるかと思います。
2020年度(2019年11月1日~2020年10月30日)と比較し、2021年度(2020年11月1日~2021年10月30日)は「マスク生活」「ニキビ」などのワードの出現率が増加しており、投稿内容からもコロナが商品選択に大きく影響していた様子が窺えます。
また(肌の)「安定」「調子」への言及が増えています。これは今年スキンケアに求められた最大の特徴の一つであると考えています。アンケートでも「いつも安定した/調子が変わらない肌になりたい」と回答した人が7割に及びました。
加えて、安定を求め「一度離れていたけど戻ってきた人」も多く、「お守り」的コスメを求める動きもみられました。肌だけでなく心を安定させる役割も果たしていたのではないでしょうか。
その他、「摩擦レス」への意識の高まりなど、荒れた肌(クチコミでは「肌の治安が悪い」という表現が増加)を労わりたいという想いが随所に見られた1年でした。
その一方で、スクラブや拭き取りアイテムが多く受賞しており、大変興味深く感じています。(ベスト洗顔料1位「SABON(サボン) フェイスポリッシャー リフレッシング」、ベストブースター1位「ベネフィーク リセットクリア N」など)
マスクによって「毛穴や角質」「汚れ」がより気になったこと、日々べたつきや蒸れを感じしていることから「すっきり、さっぱりしたい」というニーズの表れであろうと推察されます。また、衛生意識の高まりなども背景にあるかもしれません。
ただ、それを叶える方法としてスクラブや拭き取りアイテムを取り入れる行動は、これまで話してきた安定を求めた一連の流れとは相反する様にも感じられます。
なぜ違和感なく両者が受け入れられたのか。肌に優しく安心して使える商品が増え、そもそもスクラブや拭き取りに対するイメージが変化している点は大きいでしょう。加えて、何かあった時のための「お守り」コスメの存在があったからこそチャレンジできたという一面もあったのではないかと考えています。
また、【食】の世界に目を向けても、健康志向の「糖質オフ」や「オートミール」などと、ギルティフードと呼ばれる「マリトッツォ」や「大鶏排(ダージーパイ)」などが同時にトレンドとなるなど、今年は心の安定を図るために両軸の要素が必要だったのかもしれません。
ヘアケアは「ukaウカ スカルプブラシ ケンザン」が総合上位5位にランクインするなど比較的関心が高い1年でした。
従来スカルプケアは40代以上で関心の高いカテゴリーでしたが、コロナにより「頭のコリ」や「目の疲れ」の緩和、また単純に「気持ちよさ」を求めた若年層や男性までも獲得できたことが『ukaウカ スカルプブラシ ケンザン』の強さだと言えるでしょう。
スカルプケアグッズでいうと、2011年(東日本大震災の年)に「メリット シャンプーブラシ」が総合大賞 6位を受賞しています。価格帯もチャネルもメインターゲット層も異なるため一概に比較はできませんが、混沌とした時代に、癒しやリフレッシュを求めたいという気持ちはどこか共通している様にも感じられます。
もう一つ、ヘアケアアイテムで注目したいのがベストヘアスタイリング1位「plus eau(プリュスオー)ポイントリペア」です。
アホ毛や乱れ髪をひと塗りでサっと落ち着かせて整える、ジェル状のまとめ髪スタイリングですが、アホ毛ケア商品がベストヘアスタイリング1位を受賞するのは初めてのことです。
アホ毛が注目される理由の一つに写真や動画の影響が挙げられます。「web会議で画面越しに見る自分のアホ毛が気になって」というクチコミもみられました。
アンケートでは24%が写真を見て「アホ毛」を加工したいと思ったことがあると回答しています。そして驚くことに10代では5割を超え、これからの世代にとっては必須ケアとなっていくのかもしれません。
ベースメイクは、マスクの影響で「ノーファンデ化」がさらに進み、下地・コンシーラー・パウダーのみで仕上げるというクチコミもみられています。また、スキンケア効果の高い商品が多く受賞するなど、ベースメイクもスキンケアの延長という意識が強まった1年でもありました。
目元への関心の高さは今年も続いており、カラーアイテムが人気の傾向がみられています。
また「ベスト二重・涙袋ライナー」部門が新設されるなど、アイゾーンが拡大している様子も受賞商品からは窺えます。
その中でも、今年特に注目したいのが「眉」です。@cosmeのカテゴリー別の投稿比率をみても、「アイブロウ」カテゴリーへの投稿は2年連続で伸長し続けています。
さらに興味深いのが「流行よりも、自分の骨格や雰囲気に合った眉の形にしている」という人が特に若年層で多いという点です。
流行に関心の高い若年層が今こういう気持ちであることを思うと、流行ではなくありのままを活かすこの流れ自体が、いまのトレンドと言えるのかもしれません。
しかしここで注意しなくてはならないのが、ありのままというのが手を加えないと言う意味ではないことです。マスカラ、ペンシル、パウダーなど様々な形状のアイテムを使い、時には眉毛サロンにも行き自分にあった眉毛を探しているのです。
最後に総合大賞3位に入った「ケイト リップモンスター」について触れたいと思います。
引き続き、マスクの影響で厳しかったリップメイクアイテムの中、まさにモンスター級に話題となり、様々なメディアで分析記事を目にすることも多かった商品です。
「マスクに付かないこと」「塗り心地の良さ」「絶妙なカラーバリエーション」「ネーミング」「手に取りやすい価格帯」「希少性」などクチコミでも多くの魅力が語られています。
また商品とは別に「TikTok」「Instagram」「Twitter」「YouTube」など【SNS】での話題の作り方や広がり方も注目されています。クチコミでも「SNSを見てすごく気になっていた」という声は多くみられ、購入欲求の高まりに大きく貢献したことは間違いありません。
ではなぜこれほどまでに【SNS】で人気のものに魅力を感じたのか。もちろん、以前から【SNS】売れという言葉が生まれるなどその影響力はご存じのところでしょう。加えて今年は、コロナによって感じられにくくなっていた『一体感』を求める意識が働いたのではないかと考えています。
様々なことが制限され、孤独を感じることも多かったであろうこの一年、みんなと同じものを手にして盛り上がることができる。そこに大きな意味があったのではないかと推察しています。
冒頭で述べた通り、生活者の不安な気持ちはすぐには解消されないかもしれません。しかし日々小さな変化も生じています。そして、コロナ終息後、再び消費意欲が高まった時にどういったことが求められているのか。そのヒントについてウェビナーで話させていただいております。