2018年からスタートした「@cosme BEAUTY DAY」は、4回目の開催となった2021年12月1日からの54時間で過去最高の流通額を達成しました。株式会社アイスタイルリテール 取締役副社長 本橋未来と、このセールイベントの総責任者を務めた株式会社アイスタイルリテールMD部 部長 浦田望が、成功を導いた舞台裏について話します。
2021年12月1日(水)20:00から54時間限定で開催した、@cosme公式通販「@cosme SHOPPING」のスペシャルイベント「@cosme BEAUTY DAY(以下、BD)」は、過去最高の流通総額となる約11億3,000万円(EC 10億円/店舗1億3,000万円)で、対前年比160%という結果となりました。あわせて、東京・原宿にあるフラッグシップショップ「@cosme TOKYO」では、同12月に2020年1月のオープン以来、1日あたりの最高売上高を記録しています。
@cosme SHOPPINGでは、ラグジュアリーからプチプラブランドまで約4万5,000点の正規アイテムを取り扱っており、BDでは、ラグジュアリーブランドの限定品や復刻アイテム、一定額以上の購入でサンプルセットが手に入るなど、コスメ好きユーザーにとって見逃せない数々の仕掛けを用意しています。
一般的な安売りセールとしてユーザーにアプローチしていないことも特徴で、BDの総責任者の浦田は「私たちがユーザーに提供したいのは、セールというよりも、“化粧品との出会いの場”であり、“思い切り買い物を楽しんでもらう場”だ」と強調します。
そして今回は、その“場づくり”にフォーカスした結果、パンデミックの影響で化粧品販売が回復基調にあるとは言い切れないなかでも最高売上を達成できました。では何がユーザーの気持ちを動かしたのか、きめ細かな施策をいろいろとったなかで浮かんできたのが、下記の5つのポイントです。
BDは54時間限定のイベントですが、事前に限定品の予約ができる期間を設けています。@cosmeアプリ内で気になるアイテムをあらかじめお気に入り登録しておくよう促すなど、イベント当日までのコミュニケーションを入念に設計しました。
同時に、SNSを活用した施策も実施。美容系のインフルエンサーにとっては日頃から馴染みのある美容プラットフォーム@cosmeのビッグイベントであることから、自発的にコンテンツを発信してくれるケースも多いほか、今回は、熱狂的なコスメ好き以外の潜在層にもアプローチするために、節約系のコンテンツに強いインフルエンサーを積極的に起用しました。
その結果、TwitterやInstagramなどのSNSを通じて、ほぼ同時期に行われる「Amazonブラックフライデー」「楽天スーパーSALE」「Qoo10メガ割」と比較しながら、ユーザー同士が盛んに情報交換を行ったり、ユーザー独自のまとめコンテンツを発信したりする姿がみられました。
「ほかのモールで開催されているビッグセールと並べられたことに大きな意味がある。今回ようやくBDが、年に1度の見逃せないイベントだと広く認知されたように感じた」とアイスタイルリテール副社長の本橋は話します。
BDへの集客には、SNS広告だけでなくテレビCMも活用しました。広告の役割を、BDを知らない、あるいはBDに参加したことがない層への認知拡大に絞り込み、その受け皿となるBD特設サイトでは、「初めて訪れた人たちに、いかに情報をわかりやすく伝えるか」に、こだわりました。
その結果、新規ユーザー数は対前年比で135%伸び、CVR(コンバージョンレート)も同じく2.8倍となりました。平均顧客単価も対前年比117.2%で、この理由については、商品単価が上がったからではなく、「ひとり当たりの購入点数が増えた」からだと浦田は明かします。
「買いまわりが促進されるサイト設計にしたことで、1人当たりの購入個数が伸びた。これにより、既存のお客様については顧客単価が上がり、新規のお客様も一定の顧客単価をキープできたことで、トータルの売上の伸びにつながった」(浦田)
浦田は2018年の初回からMD担当としてブランドとコミュニケーションを重ねながら、魅力的なBD限定商品の作成に取り組んできました。限定品の数は回を重ねるごとに増えていき、今回は600種類を提供できました。
過去3回のBDを通じて培った「ユーザーに支持される限定品のつくり方」と「ブランドからの信頼感」が掛け合わさり、BD限定で復刻販売される人気アイテムやBDでしか買えない人気ブランドの特別なキットなど、話題性があり拡散もされやすいアイテムを取り揃えることができました。
限定品は、その人気ゆえにすぐに売り切れる傾向にあります。完売御礼の演出によって「急いで買わなければ」という空気感の醸成も可能な一方、これまでは、限定品が売り切れたと知るとそのまま離脱するユーザーも少なくありませんでした。しかし今回は、限定品が売り切れた後でも通常品やコフレの購買につながるよう、導線設計を念入りに行いました。
たとえば、初日と2日目以降では、「限定品押し」から「通常商品押し」へと特設サイトの構成を変えました。加えて、横スクロールで画面を遷移せずさまざまな商品を見られるようにし、前回までは全体しか表示していなかった売上ランキングを、カテゴリー別に、かつ3時間ごとのリアルタイム更新に変更し、簡単な操作でできるだけ多くの商品と出逢える機会を増やしたのです。
こうした買いまわり施策に加え、もうひとつ販売強化につながったと考えられるのが、カートの仕様変更です。これまでは、商品ページで購入ボタンをタップすると、そのまま購入画面に遷移していたため、ほかの商品を買いたい場合には、再び商品ページに戻るための1アクションが必要でした。それを、「カートに入れる」ボタンを押すだけで欲しい商品がカートにストックされ、商品ページからは遷移せずにそのまま買い物を続けられる仕様へと変更しました。
また、今回は350以上のブランドの参加があり、「たくさんありすぎて何を買えばいいか迷ってしまう」という顧客の相談にリアルタイムでこたえる「ワタシ何買ったらいいの?教えて!美容部員さん」というライブイベントを、BDの期間中の1日10時間ずつ合計20時間実施しました。これは、化粧品検定1級やJBMA認定メイクアップ検定(EXPERT)などの資格を保有する6名の美容部員が、ユーザーそれぞれの悩みに最適な商品を約4万5,000点のなかから提案するものです。
1対1のカウンセリングを基本としつつ、視聴したいユーザーが誰でも見られる仕組みとし、17LIVEの「HandsUP」を通じて生配信しました。参加ユーザーはライブ配信を見ながら、美容部員が提案した商品を@cosme SHOPPINGでシームレスに購入することができます。
「毎年、ユーザーの方々から『商品点数が多すぎて、何を買ったらいいのかわからないままBDが終わってしまう』という声があがっていたため、商品選びをサポートする目的で行った。視聴者数や滞在時間を見ると、予想以上に多くの方に長時間、視聴いただいたことがわかっており、それが実際の購買にもつながっていた。ニーズの高さを実感できたため、2022年に入ってからは、毎週この取り組みを続けている」(浦田)
ここまで紹介したのは過去のBDでの経験をもとにアップデートした具体的な施策ですが、これに先立ち、組織としての大きな意思決定を行いました。@cosme SHOPPINGは、メディア、EC、店舗がトータルでユーザーへの価値提供を実現するため、複雑になりがちな目標設定も含めて「あらゆる物事をシンプルにした」と本橋はいいます。
KPIについても、これまではアプリのMAUなど、部署ごとに複数のKPIをもっていたのを、どの部署であっても購買アクション数を最重要KPIとしました。これにより、「全社一丸となって購買アクションの最大化につながる動きをとることができた」と、現場を統括した浦田は振り返ります。
それにともない、ユーザーとのコミュニケーションも“シンプルに”を心がけました。「これまではユーザーに多くのことを伝えようとするあまり、ユーザーに本来伝えるべきことが伝わりにくくなっていた」(本橋)というように、BDの特設サイトで伝える情報が多すぎたり、アプリ内の導線が複雑すぎたりしたことで、ユーザーが混乱し、行動が分散しているとわかったためです。
伝えたいことを明確に絞ったことで「それ以上のことはSNSでユーザー同士が会話をしてくれるという好循環につながった。化粧品はファッションとは異なり、価格勝負がそれほど起こる市場ではない。『欲しい気持ちを高めて、最後に背中を押す』というコミュニケーションをシンプルにやっていくのが重要で、それを徹底した」と本橋は話します。
運営体制を変更したことも、好結果につながりました。過去3回のBDは本橋がトップに立ち総責任者を務めてきたのを、今回はMD責任者だった浦田が総責任者に就任し、浦田を中心に現場に近いメンバーが自由に動ける体制を敷きました。
「私は浦田にしか何も言わず、メンバーを動かすのは浦田に一任した。浦田は新卒として入社してから11年目で、社内でトップクラスの熱量と馬力があるのを見込んで抜擢した。浦田のマネジメントスタイルは、先陣を切って引っ張っていくというよりは、熱量を伝えることでメンバーが“支えたくなるタイプ”のリーダーシップだ。BDのような部門横断で進めていくプロジェクトは、彼女のように熱量を伝播させ、皆を巻き込み、あるいは巻き込まれながら進めていけるリーダーが向いていると思う」(本橋)
アイスタイルリテール副社長として本橋が目指すのは、リアル店舗とECの売上比率を50:50に持っていくことです。現在は60:40でまだリアル店舗の方が上まわっているのを、コロナ禍が収束してリアル店舗の売上が回復することも想定したうえで、EC比率を50:50まで引き上げたいと考えています。また、ECである@cosme SHOPPINGと、リアル店舗である@cosme STORE、@cosme TOKYOのIDが統合されているからこその利便性も、さらに追求していくとします。
「@cosmeの強みは何といっても、何百というブランドを横断した豊富な商品知識を有するプロの美容部員を抱えていることだ。美容部員のポテンシャルをより引き出すために、接客以外の評価ポイントも明確にしながら、今後は美容部員のエデュケーションにもっと力を入れたい。『@cosmeには日本屈指のカリスマ美容部員がそろっている』と周知されることで、『コスメを買うなら@cosme』とユーザーに第一に想起される存在になりたい」(本橋)
Text: 野本纏花(Madoka Nomoto)