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2人の経営者が語る、Beyondパーソナライゼーションを実現し、Wao!がある顧客体験を創造するためには?【@cosme for BUSINESSウェビナー】

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20221012日、@cosme for BUSINESSは、ウェビナー「これからの生活者とブランドが出会う『顧客体験の創り方』について」を開催しました。株式会社IBAカンパニー代表取締役社長の射場瞬氏と株式会社アイスタイル代表取締役社長の遠藤宗が登壇した第一部のセッションの模様をご紹介します。

「これからの“顧客体験創り”について、2人の経営者が考えること」と題した第一部では、米国のデジタル技術やビジネスモデル、マーケティングの最新知見を活用し、企業の事業開発やDX戦略をサポートする株式会社IBAの代表を務める射場氏をゲストに招き、遠藤との対談を行いました。

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キーワードその1:「顧客体験++」“Wao”がある体験を創りだす

射場氏は冒頭、20229月、米国で開催されたリテールのコンベンション・フォーラム「Grocery shop」に参加した際に、「登壇者の多くが、ゲストエクスペリエンス(guest experience)、いわゆる顧客体験の領域で、今までよりも高いレベルの顧客体験を創りだすことが必要になると語っていたことに驚いた」と感想を述べました。

それまで体験における利便性を上げるため、デジタル技術をどう活用していくかを中心とした話題が多かったのが、「デジタルを活用した仕組みが整い、顧客データが集まり、データを活用する活動が一般的になってきたため、どのリテールの仕組みも、同じような機能を提供し、便利さという点での差別化が難しくなってくる。そうした環境下でどうやって顧客との関係を深めるのかと考えたときに、一周まわって“やはり顧客の喜ぶ体験を提供することが大切”というフォーカスに戻ってきた」と射場氏は分析。「ただし以前と異なるのは、デジタル化により顧客データの収集と検証ができるようになったことから、同じ顧客体験を語るにしても、より深い顧客理解をベースにした、より高いレベルの顧客体験を創ることを目指している」とみています。

これを踏まえて、今回のセッションにおけるキーワードその1として、射場氏は今、米国リテールが目指す顧客体験を表現し「『顧客体験++(プラスプラス)』“Wao(ワォ)”と言いたくなる顧客体験」をあげました。Wao」、つまり“うれしい驚き”がある顧客体験の具体的な事例として、ここで射場氏が取り上げたのは、2022年9月に射場氏自身が訪問してきた米国大手化粧品チェーン、セフォラ(Sephora)のロサンゼルス店舗での買い物体験です。

そして、同年3月と9月に同じ店舗を訪問し、6カ月の間に実施された変更について驚いたとのこと。「店舗の改装はせずに、商品を置く位置や動線を、顧客にとって新しい発見や驚きが与えられるように変えていた店舗の中央や、入り口すぐの目立つエリアに、話題性の高い、今後人気が上がりそうなブランドや商品を “NEXT BIG thing(次に来るモノ)”として大きく紹介し、顧客の新しい発見、“ディスカバリー”を促すと同時に、顧客の商品選びの傾向やプロセスを考え、例えばヘアケアのカテゴリーでは、ブランドごとの陳列に加え、サステナブルを重視したヘアケア商品のグループなど、選択時に顧客が重視する要素別や、目的別に区分された棚作りを実現していた」と話しました。

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「店舗を訪れるたびに、顧客が何かしら新しい“発見”をして楽しむ、そうした体験ができる店にすることを考えて、MD、商品、見せ方(棚作り)を変える試みをしていることを実感できた」と射場氏は言います。同時にこうした施策は「店舗内での行動や購買情報も分析可能なので、意図に沿った結果になっているかなどのトラッキングが、ほぼリアルタイムでできるはずだ。施策が顧客の望む方向でなければ、改めて変更すれば良い。このように、デジタル化により店舗データの詳細分析が可能になったことから、情報をトラッキングしながらのトライアル&エラーが可能となり、フレキシブルに打ち手を変化させられるようになったのだと思う」と指摘。

射場氏の話を受けた遠藤は「セフォラと@cosmeは、ある意味、同じ発想に立っている」とします。そして、@cosme TOKYOの発案にあたり一番最初に考えたことは、店舗レイアウトを決めるのではなく「お店という“箱”を作るのはやめよう。体験を創ろう。それを何よりも大事にしよう」ということだったと話します。「お客様が店に入ってから、最後に店を出るまで、さらには、家に帰ったときまで、どういう体験をしてもらうのか、そのなかで店がどのような役割を果たすか、そのことをまず考えた。それをチームの皆に投げ、では、こういう機能で創ろうとか、こんなデザインで創ろうとアイディアを出し合い、それから図面を書き出した」(遠藤)

セフォラと同じく、顧客が今まで知らなかったコトやモノがあり、発見がある店づくりを目指したのが@cosme TOKYOで、@cosmeの象徴として、ベストコスメを集結したベスコスタワーをエントランスからすぐの場所に配置して、Waoと思う体験を提供したのもその一環です。また、オリジナルコンセプトとして「試せる・出会える」を掲げた@cosme TOKYOは、顧客がいろいろなものに出会いやすくするため、ブランドを横断し、テーマ別の陳列なども積極的に行っているとします。

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キーワードその2Beyond「パーソナライゼーション」

射場氏は今回のセッションのキーワードとして、もう1つ「Beyond『パーソナライゼーション』」をあげました。

射場氏は「(データをもとにした)パーソナライゼーションやレコメンデーションというのは、過去に拠った体験や属性から、“あなたはこれが好きですよね。もう一度これを買いませんか?”と提示すること」だと説明します。つまり、以前に商品検索したデータや購入履歴から、その人の好みに合うものを抽出するのがパーソナライズだというのです。

これに対してBeyondパーソナライゼーションとは「過去に売ったこともなく、告知をしたことがないものを“実はこういうものもあなたは好きかも?”とユーザーに問いかけること」だと射場氏はいいます。また、問われたユーザー側も、「えっ?」と思いつつ、「それもありかもしれない」と新しい発見に導かれるのが、Beyondパーソナライゼーションだとします。そして、これを可能にするためには、顧客のインサイトを一歩踏み込んで知ることが必要で、より精緻なデータ分析も重要ながら、人の気持ちを理解する、人の気持ちを動かすことに、マーケターが向き合い、何が人を動かすのか、なぜ感動するのかを真剣に考えることが求められると射場氏は話します。すなわち、顧客を深く理解することで、顧客自身も気づいていないような「心を動かすもの」を提案する、それが射場氏の考えるBeyondパーソナライゼーションです。

遠藤もまた「パーソナライゼーションはすごく大事なことだ。ただ、そこに発見がないと楽しくはない。だから“あなたは過去これを使ってきたから、こういうのですよね”と言われ続けるのは、お客様にとってちょっと違うのではないか。やっぱり、いろいろなものにチャレンジしたい、試したいという思いはどこまでも消えないのではないかと思う」と話します。

人々の価値観が多様化している今、本当の意味でのパーソナライズが可能なのかという議論もあることもふまえ、遠藤は「(パーソナライズの提案が)少しずれていると、お客様は“わかっていない”と不満に感じることもあるだろう。それよりも“今度こんなチャレンジをしてみませんか”と語りかけるほうが、感動やWao!と思う気持ちが起きるはずだ。それが、@cosmeにきて良かった、また新しいものに出会えたと喜んでもらえることにつながるのでは」と、Beyondパーソナライゼーションという方向性に賛同します。

顧客の深い理解を軸にオープン化、ブランドと協力して創る顧客体験

「顧客体験++」や「Beyondパーソナライゼーション」というキーワードに共通するのは、これまでよりも一層深い顧客理解の重要性です。この点について射場氏は、現在、米国でよく言われていることとして、大手リテールやマスブランドであっても、「重要顧客を決める」ということが戦略的に重視されるようになってきていると話します。

「顧客の重要さは全て同一ではない。誰のデータが必要で、重要なのか?を考察すべきだという考え方が一般化されている。デジタル化が進み、得られるデータの種類も量も膨大になってきている。AI等を含め技術は進化し、データサイエンティストの数も増えているが、全てのデータを分析し、全ての顧客にさまざまな施策を試したうえで、何をするか考えるべきなのか?という疑義が出てきた米国では、まず優先的に誰を深く理解するのかを絞ることが言われ始めている」(射場氏)

遠藤は、@cosmeとしてはそこまで絞るには至っていないとしながら、@cosmeの顧客イメージは基本的に「化粧品が好きで興味を持っている人」であり、そうした方々に向けて「店舗には何でも置いてあって、動線設計も出会いや発見があるように作っている」とします。それを射場氏は「その動線を頻繁に訪れる、新しいものを使いたい人を理解しようという軸ができている」と評価します。

あわせて遠藤は、Beyondパーソナライゼーションを進めるにあたり、顧客理解を深めるためのデータをアイスタイルは膨大に持っており、これをブランドや協力企業にもシェアして、パーソナライゼーションを超えた顧客体験をどうしていくかを、みんなでともに考えなければいけないと話します。

「僕らが持っている、いろいろなことをやってきた成功例、失敗例など、データとしては出せるものも出せないものももちろんあるが、できるだけこうしたデータをオープンにして共有し、一緒に顧客体験を創造していきたい。そうじゃないと、Beyondパーソナライゼーションは多分実現できない。僕らだけではできないし、ブランドだけでもできない。@cosmeは常にブランドの皆さんをパートナーと思ってやってきたが、このパートナーシップがますます重要になると思う」(遠藤)

セッションの最後に「最高の顧客体験を一言でいうと?」と尋ねられた射場氏は、「楽しい、ワクワクと心が動く体験が重要」と答えました。一方、遠藤は「(我々が提案するものを)本当にお客様が楽しいか?ワクワクしているか?手に取りたいと思ってくれるのか?こうした問いを真ん中に置いて、そのためにデータからみえることを活用し、こんなことができるんじゃないかとアップデートしていく」として、その先に最高の顧客体験があるのではないかと示唆しました。

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