Z世代を中心に位置情報共有SNSの利用が広がっています。なぜ若い世代は位置情報共有SNSを支持するのでしょうか。こうした「次世代SNS」の台頭によって、例えば、地図上でのキャンペーン情報通知や、美容部員の出勤情報の共有、顧客来店情報の把握など、生活者と化粧品ブランドに新しいコミュニケーションが生まれる可能性がでてきました。注目の位置情報共有SNS アプリ「NauNau(ナウナウ)」の生みの親で、早稲田大学在学中に起業したSuishow株式会社 代表取締役CEO片岡夏輝氏に話を聞きました。
テキストや音声、動画だけではなく、位置情報を使ってつながる位置情報共有SNSが、最近若い世代を中心に支持を集めています。位置情報共有SNSでは、お互いの居場所や移動状況を見ながら、登校時間や待ち合わせ場所を決めたり、24時間、自分がどこにいるかを友達と共有したりができるのです。
位置情報共有SNSのなかでもとりわけ圧倒的な知名度と人気を誇っていたのは、フランスで開発され、のちに米Snapchatが買収した「Zenly」です。しかし、ユーザー数は直近で約4,000万人まで拡大していたにもかかわらず、Snapchatの業績不振による影響で、日本では2023年2月にサービス提供を終了してしまいました。
そんななか、Zenlyの受け皿となる代替のアプリとして注目を集めているのが、日本発のNauNauです。Zenlyの後継となる位置情報共有アプリという意味では、NauNau以外にも、 Snapchat内の「Snap Map」や、海外ユーザーに人気の米MixerBoxが運営する「友どこ」、日本ではLinQによる「whoo」なども知られています。
しかしNauNauは、Zenlyが終了を発表した翌月である2022年10月にいち早くローンチし、「Zenlyの代替となるアプリ」として他アプリよりも早く認知を得て、約3カ月で270万ダウンロード突破と急成長しました。NauNauの生みの親で早稲田大学の現役大学生である片岡夏輝氏(現Suishow株式会社 代表取締役CEO)が「Zenlyの初期の頃のUIにヒントを得ている」というUIを備えていることも後押しになったようです。このUIデザインは、NauNauにとっての差別化ポイントであり、ローンチ後も継続的なアップデートによりユーザビリティの強化を図っています。
2023年1月には、ZenlyからNauNauにデータを引き継げる機能も追加
NauNauは、もともとは片岡氏の個人的な興味から開発されたアプリでしたが、ユーザーの急拡大を受けて、2022年末に片岡氏が代表を務めるSuishow株式会社に事業が引き継がれています。2023年1月には、モバイルゲーム事業などを展開するモバイルファクトリーと資本提携を含めたパートナーシップ契約の締結も発表しています。
NauNauはアプリを起動すると地図が表示され、地図上で自分の位置や、フォローしている友達の位置、滞在時間や電池残量などを見ることができます。たとえば、同じタイミングで電車を降りる友達を見つけて「一緒に帰ろう」と声をかけたり、学校内で友達が集まっている場所に行って一緒に遊ぶといった活用例があります。位置情報を共有していれば、わざわざメッセージを送り合う手間もかからず便利というわけです。
NauNauが短期間で利用者を増やしたのには、SNSに対する人々の関わり方の変化とも少なからず関係しているようです。もともとSNSは、自分の近況を投稿して周囲に知らせるツールとして普及し、まずFacebookが広まり、その後TwitterやInstagramへと派生していきました。この流れのなかでインフルエンサーの登場や、投稿するコンテンツの質が上がったことで、単に自分の思ったことを共有するような投稿がしにくくなり、また、不特定多数の人の目に触れることに抵抗感を持ち、投稿を敬遠する動きも出てきました。
それがZenlyやNauNauのような位置情報共有アプリが流行る一因になっていると片岡氏はいいます。
「既存SNSの投稿ハードルがどんどん上がるなか、これまでも投稿ハードルの低いSNSに人が流れる傾向はあった。その究極版ともいえるのがZenlyやNauNauで、わざわざコンテンツをつくらなくても、位置情報さえ共有していれば自分の近況を周囲に伝えることができる。その気楽さに魅力を感じて位置情報共有アプリを利用しているユーザーは多いだろう。中長期的にみても、既存SNSの投稿ハードルが上がることは避けられない。そのかわりに、位置情報とAIジェネレーターなどを組み合わせ、投稿が自動でフィードに流れるようなSNSが台頭していくのではないか」(片岡氏)
つまり、位置情報そのものがコンテンツとなっているので、ユーザーは投稿すらしなくてよいという徹底した気軽さや利便性が多くの若いユーザーをひきつけているのです。
位置情報SNSの台頭で、ブランドと生活者のコミュニケーションはどう変わるのでしょうか。たとえば、あらかじめ設定した属性のユーザーが店舗の近くを訪れた際に、SNSの地図上でクーポンやキャンペーン情報をプッシュ通知し、来店促進を促すようなコミニュケーションは、SNSを介してより活発化するのではないかと片岡氏はいいます。
実際、こうした位置情報をはじめとするさまざまな個人情報を組み合わせ、ユーザーに最適なレコメンドを行うスーパーターゲティング広告をNauNauのマネタイズポイントとして検討しているそうです。
現時点ではまだ具体的な計画はないそうですが、NauNauはブランドなど事業者とのBtoB連携にも相性が良く、ビジネスになるだろうと片岡氏は考えているそうです。またすでにNauNau上で事業会社が無料で公式アカウントの開設が可能な仕組みも整えているといいます。「いまはインフルエンサーの開設が中心だが、公式アカウントに登録すればイベントなどをNauNauの地図上に表示することができる。より正確なレコメンド体験を提供できると思う」(片岡氏)
出典:NauNauアプリ
化粧品ブランドにとってもこの位置情報公開は役立つのではないでしょうか。たとえば、美容部員の勤務情報を知らせる手段として、美容部員とユーザーがNauNauで直接つながり、勤務状況を位置情報上で共有したり、顧客の側も来店をあらかじめ知らせることができれば、効率的な接客、買い物につながるでしょう。
さらに、大規模店であれば、目当ての美容部員が店舗のどこにいるのかをリアルタイムで通知したり、また、店舗内のピンポイントの場所やスタッフとのつながりを経由したイベント告知やクーポンを配信するといった使い方も期待できます。店舗やスタッフの位置情報と関連情報を公開することで、街中で看板を見つけるのと同じような感覚で、アプリを介して認知や新たな出会いのきっかけ作りにも役立ちそうです。
ただ、課題もあります。位置情報共有アプリの利用は今のところは若年層が中心で、購買力を持つ層をどれだけ取り込めるかが、位置情報共有プラットフォーム普及の鍵を握ります。まだまだ位置情報を共有することをためらう層は多いです。片岡氏はその課題をどのように捉え、解決しようと考えているのでしょうか。
「利用者の最大の懸念ポイントは、正確な位置情報を知られること。たとえば、居場所の特定や追跡をできないようにしたり、位置情報の公開範囲を細かく設定できるようにして、安心して使ってもらえるようにしたい」と片岡氏はいいます。位置情報は場合によっては悪用もできるセンシティブな情報であり、NauNauとしては、フィルタリングなどの設定の充実により安全性を担保し、懸念を払拭していきたいといいます。
NauNauは今後どのように成長の道筋を描いているのでしょうか。片岡氏は直近1年間は、機能の追加やZenlyを使っていたユーザー層の獲得に注力し、インフルエンサーとの協業も積極的に行っていく予定だといいます。さらに、2024年以降は、自らが育ったインドやアジアでの展開も視野に入れているそうです。
アジアを目指すのは、「欧米よりもアジアの方が位置情報共有アプリの利用が盛んで、マレーシア、台湾、インドネシアなど、人口密度の高い地域で普及している傾向があるから」であり、さらには、機能や仕組み面の整備と充実を図り、30代以降のより幅広い年代に向けて数年をかけてアプローチし、位置投稿による投稿自動化にも並行して取り組む構想で、「10年プランで育てていきたい」と片岡氏は語ります。
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