オルビスがオープンした無人販売店舗「ORBIS Smart Stand」1号店は、接客の必要性を感じていない顧客や、男性顧客など「化粧品店に入りにくい」と感じる層をはじめ、誰もが気軽に利用しやすい店舗形態で、他の商業施設などからも出店の引き合いが多数寄せられているそうです。同店舗のしくみや今後の展望をオルビス株式会社の店舗事業責任者に聞きました。
2023年5月12日、商業施設「グランデュオ立川」にオープンしたオルビスの「ORBIS Smart Stand」は、近年コンビニ等でも展開が進む、店員を置かない「無人販売」の店舗です。導入されているのは、株式会社TOUCH TO GOの無人決済システムで、天井に設置された複数のカメラなどの情報から、顧客が手に取った商品を認識し、出口付近の決済端末で簡単に支払いをすませることができます。
同社によると、事前の顧客登録などを必要としない無人販売店舗の立ち上げは業界初です。そこに踏み切った背景を、オルビス株式会社 CRM・メディア戦略部 店舗統括担当部長 石田龍太郎氏は次のように話します。
「昨今、市場において、美容部員や販売員など、従業員の人手不足の社会課題を弊社も感じており、今後、少子高齢化が進む社会で、有人店舗のみでの運営は限界がくるのではないかと考えている。そのようななかで、2021年8月にTOUCH TO GO社が、羽田空港の第2ターミナルで無人販売店舗『ANA FESTA GO』をオープンしたプレスリリースを見て、弊社の店舗でも実現できないかと、すぐに問い合わせた」(石田氏)
オルビスは、創業時からCRM(顧客関係管理)に重きを置いていて、今もなおリアルな接点でのふれあいを含む顧客との最適な距離感を大切にしています。無人店舗を打ち出したのには、人手不足解消とともに、人件費の削減によるコスト効率向上を図るという側面はもちろんありますが、ORBIS Smart Standの狙いはそれだけではありません。
一般的に、化粧品ブランドの店舗を訪れる顧客には、美容部員とのコミュニケーションを求める人がいる一方で、「欲しい商品は決まっているのでアドバイスはいらない」「自分で商品を選び、サッと買いたい」「話しかけられるのは面倒」と感じる人もいます。無人店舗は、こうした層の受け皿にもなる、誰もが訪れやすい店舗にすることができます。
ORBIS Smart Stand グランデュオ立川店は、店舗内にオンラインカウンセリングブースを設置。顧客が必要と感じたときに、仕切られたブースエリアに自由に入り、タブレットを操作することで、美容部員に遠隔で無料で相談して、自分に合った商品を知ることができます。これは無人店舗であっても、オルビスが大切にする“ふれあい”の部分を活かすための取り組みです。
「ストレスフリーに気兼ねなく、ご自身に合ったものを手に入れていただくために“セミセルフ”の形とした。必要なお客様にはしっかりカウンセリングをし、必要と感じていないお客様はさっとスムーズに購入できるという顧客体験を提供する設計とした」(石田氏)
石田龍太郎氏
ORBIS Smart Stand グランデュオ立川店は、オルビスがもともとグランデュオ立川に出店していた有人店舗のあとにオープンし、全16坪のうち、約2坪を無人販売スペースとして活用。残りのスペースには、自由に使える商品テスターがゆったりと棚に並べられ、奥に進むとオンラインカウンセリングブースが用意されています。
現状の品揃えは、有人店舗のデータをもとに、売れ筋のスキンケア商品を中心としていて、新商品など、そのときどきのおすすめの商品も置かれています。
無人販売スペース入り口(左)と商品棚(右)
買いたい商品を手に持つと、天井カメラや棚に設置された重量センサーが何を何個持っているかを検知。出口専用フラップドアのすぐ手前にあるレジの前に立つと、選んだ商品が瞬時にリスト表示されます。画面の指示に従って決済(キャッシュレス限定)を済ませるとドアが開いて退店でき、簡単かつスムーズに購入できる仕組みです。
何も買わずに退店したい場合は、商品を棚に戻し、手ぶらの状態でレジ前に立つと「お店を出る」というボタンが表示され、それを押すと外に出られます。
もし操作上わからないことがあれば、レジに設けられたTOUCH TO GO社のコールセンターへの連絡用設備で問い合わせをすることもできます。
オルビスにはORBIS Smart Stand グランデュオ立川店のオープン以降、駅や商業施設からの問い合わせが多数寄せられているそうで、メディアからの注目も強く感じているそうです。
ORBIS Smart Stand 1号店を東京・立川にオープンすることに決めた理由は「トラフィックや賃料とのバランスを考慮したうえでの判断」と石田氏。立川エリアには、ほかにも「ルミネ立川」に有人店舗を出店し、無人店舗と有人店舗の違いを利用してすみ分けを図っているといいます。
「(ORBIS Smart Stand立ち上げにあたり)グランデュオ立川は、有人店舗時代のお客様がいらっしゃるので集客面ではある程度予想ができた。また、近くに有人店舗ができたので、メイクアイテムなど無人店舗に置いていない商品が欲しいお客様や、しっかり接客・カウンセリングを受けたい方をそちらに誘導することができる。この2つを掛け合わせることで、企業としてより良い店舗のあり方のトライアルをしつつ、顧客体験を損なわない場として展開するのに立川は適していた」(石田氏)
無人販売店舗には、「化粧品店には入りにくい」と感じる男性顧客が利用しやすいというメリットもあります。もともとメンズ商品が強い傾向にあるオルビスでは、ORBIS Smart Stand グランデュオ立川店でもメンズシリーズの売上が一定量上がっていて、「実店舗での化粧品の購入に慣れていない新規の男性のお客様も気兼ねなく立ち寄っていただいているようだ」と石田氏はいいます。
また、有人店舗時代よりも、閉店前の駆け込み購入が増えたそうです。目当ての商品が決まっている場合、「仕事帰りにパッと買って帰宅」といったライトな来店もしやすくなっていることがうかがえます。
オープン後の売れ行きや来店者数などの推移はおおむね想定通りといい、売上個数ランキングの上位に詰め替え品が入っていることから、有人店舗時代の顧客にも無人店舗が受け入れられている模様です。
ORBIS Smart Standは基本的に完全無人営業で、在庫補充や商品入れ替え等は外部に委託し、必要に応じてオルビス社員が不定期で行っています。また、操作中に不明点があれば、画面の「呼び出し」ボタンを押すと問い合わせができ、その対応はTOUCH TO GO社が担当しています。システムにとまどう顧客に対して操作の説明をしたり、取り扱いのない商品を求める顧客に近くの有人店舗を案内したりします。
テスターを含めて万引き・盗難など、無人にしたことによる目立った問題は今のところないものの、オペレーションの改善や無人販売店舗の認知拡大は必須だと石田氏は認識しているそうです。
「初めて無人販売店舗やセルフレジを経験される方は、どうすればいいかわからない点も多いと思うので、そのあたりのフォローはまだまだ必要。TOUCH TO GOのコンビニなどでも、お客様は1回入って買ってみると『意外と簡単』と感じて定着すると聞いている。まずは、一度利用してもらうという、その体験をしっかりとつくっていければ、おのずと来店者数や売上がついてくると予想している」(石田氏)
また石田氏は、今後の無人店舗の展開や役割について「多様化するお客様のニーズを幅広くカバーする顧客体験を提供することにある」といいます。
「無人化粧品販売店の領域に初めて参入したということもあり、無人では化粧品商材の売れ方がどうなのか、その特徴やメリットなどデータをきちんと検証しながら、TOUCH TO GO社とも協力して、仕組み自体をより良い方向に変えていければと話している。必要なものがストレスなく簡単に手に入るのは無人店舗、ふれあいやパーソナライズ体験を楽しむのは有人店舗というように、トータルでCXを考え、多様なニーズに応える体験を届けていきたい」(石田氏)
Text: 落合真彩
Top image and photo: オルビス株式会社