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DXは完璧にやらなくてもいい、失敗してもいい。美容部員のオンラインライブやカウンセリング。現場からの提言

作成者: @cosme for BUSINESS編集部|Oct 10, 2021 11:00:00 PM

ダイエット&ビューティーフェア会場で開催されたビューティテックシンポジウムには、@cosmeTOKYOの事業責任者と、美容部員がライブで行うオンライン接客のトレーニングや仕組みづくりの設計担当者が登壇。「明日からできる化粧品販売のDX」をテーマに、スピード感と熱量を保ちつつ、現場とお客様の双方に得るものがあるDXを実現するヒントが語られました。

2021913日〜15日に開催されたビジネスショー「ダイエット&ビューティーフェア」では、ELC(エスティ ローダー カンパニーズ)ジャパン株式会社 営業本部 トレーニングマネージャー 江川みさ氏、株式会社アイスタイル @cosmeTOKYOの前事業責任者で小売DX推進統括の坂井亮介と、同プロデューサーの福岡さくらに加え、モデレーターとしてBeautyTech.jp編集長の矢野貴久子が登壇するビューティテックシンポジウムが開かれました。

冒頭に矢野が「参加者の方に今日持ち帰っていただきたいポイント」としてあげたのは、意外にも「DXはちゃんとやらなくてもいい」という言葉でした。これは何を意味するのでしょうか。

BeautyTech.jp編集長 矢野貴久子

表の非効率と裏の効率、そのバランスがDX成功の鍵

第一部として、東京・原宿にある旗艦店@cosmeTOKYOの事業責任者であった坂井が、この1年半で進めてきたDX施策にあわせて、その前提とする考え方を紹介しました。「20201月@cosmeTOKYOオープン後まもなくコロナ禍に見舞われ、店舗が休業や時短をしいられるなか、化粧品販売のあり方を、デジタルによって待ったなしで変えていかなければならない事態に直面した」と坂井は振り返り、「まず今できることは何か」と「どうしたいのか」を書き出すと同時に、「ブランドと生活者をつなげる」という@cosmeの役割を再確認することから始めたと話します。そして、この役割を果たすために、店舗の中でも外でも、ユーザー、ブランド、店がつながる体験を創出することを目標に掲げたと明かしました。

株式会社アイスタイル @cosmeTOKYO前事業責任者
小売DX推進統括 坂井亮介

具体的な取り組みとしては、バーチャル店舗の開設や、店頭での非接触によるサンプル提供やカウンセリング台帳などのリテールテックの導入、遠隔でも顧客とライブで会話ができるオンライン接客などがあります。こうした施策を進めるにあたり、大切にしていることとして坂井は「表の非効率、裏の効率」をあげました。つまり、お客様と向き合い、その要望によりそう接客の場面で求められるのは、スピードや効率性ではなく丁寧で細やかな対応であり、非効率であることにむしろ価値があるのに対して、接客内容を充実させるためのデータの取得や、非接触でもスムーズなコミュニケーションを支えるツールにこそ、デジタルによる効率化が必要だというのです。それは「テックタッチとヒトタッチ」のバランスとも言い換えられます。

とくに、@cosmeTOKYOが大切にする接客をDXするにあたり、坂井は、これまでの「接客=対面販売」から、「接客=スタッフ活動全て」へと価値観を変革する必要があるとします。情報発信、コンテンツ、オンラインおよびオフラインの接客を含めた広義な意味で「接客」を捉えるという発想です。それに伴い、KPIは体験へシフトしていくと考えられます。売れた個数、金額、時間をカウントするPOSPoint of Sale)から、コンテンツの閲覧数や来店の数や体験の数、体験の時間をカウントするPOEPoint of Experience)をとっていくことが重要になるというのです。

一方で、坂井はDXを難しく考える必要はないとして「小さなこと、できるところからどんどんやってみる」ことを勧めます。どう説明したら上司の承認がおりるかを考えるより「まずやる。とにかくやる。うまくいかなかったとしても、うまくいかないことがわかったという成果になる。失敗しても誰かがみていてくれている。それが結果的に次につながる」と、まずは行動を起こすことだと、自身の経験をもとに語りました。

ライブの熱が冷めないうちに購入へ

第二部では、動画に演者として出演しライブコマースを担うELCBA(ビューティアドバイザー)のトレーニングと育成全般を担当する江川氏と、遊軍のような立場で横断的に@cosmeのオンライン接客サービスをプロデュースする福岡をゲストに、実際の現場では何が行われているのか、その目指すところについてパネルディスカッションが開かれました。

ELCジャパン株式会社 営業本部
トレーニングマネージャー 江川みさ氏

エスティ ローダーでは、グローバルで使用している配信ツールBambuserを、日本でも2021GW前に導入し、わずか2週間後に1回目のライブ配信をしたところ、それまで行なっていたInstagram Liveに比べて売上が約500倍になったといいます。

【BeautyTech.jp】エスティ ローダーが導入の「Bambuser」、ライブコマースで従来の500倍の売上効果

これは、Bambuserは発行したコードを埋め込むだけで、公式サイト内でライブ配信を手軽に行えるようになり、さらに、動画内で紹介した商品を、そのまま視聴を続けながら公式サイトから購入できるライブコマース機能を備えているため、「ライブで盛り上がったユーザーの熱が冷めないうちにスムーズに購入に誘導できる」点が大きいと江川氏は指摘します。

この「熱が冷めないうちに買える」というのはオンライン接客の鍵であると福岡も同意します。@cosmeでは、15分のライブ・オンラインカウンセリングをはじめ、あらかじめ試供品を参加者の手元に送っておき、当日実際に商品を試してもらいながら、ライブで使い方や魅力を説明する「オンライン体験会」や、@cosmeTOKYOの店頭にいる接客スタッフ(美容部員)がZoomを通して遠隔のユーザーとつながり、店舗内を動きながらユーザーの要望に最適なおすすめ商品を棚から取り出して紹介する「お買い物コンシェルジュ」などのサービスを実施しており、いずれの場合も「案内した商品のリストをセッション後5分以内で送る」ことをポリシーとしています。

株式会社アイスタイル プロデューサー 福岡さくら

「すぐメールで送るのでメモを取る必要はなし。ライブではスタッフとの会話を存分に楽しんでもらいたい」とライブの没入体験でユーザーを盛り上げ、高揚感を購入行動に結びつける狙いを福岡は示唆。実際にオンライン客単価は店舗の2倍にのぼっているとします。

BAの個性を活かした学びもあって楽しいコンテンツ配信

ではライブ配信に登場するBAは実際にどのようなトレーニングを受け、どんなコンテンツが作られているのでしょうか。

江川氏は、エスティ ローダーのライブコマースが目指しているのは、商品を使用する際のちょっとしたコツや正しいケア方法などの「学びもあって、つい買いたくなる楽しさもある“エデュテイメント(エデュケーション+エンターテイメント)”なコンテンツ」と話します。そして、BAには大きく分けて、説得力のある言葉でお客様を納得させることができる「“教える”のが上手なBA」と、お客様の心にピンポイントで響く「魅力的なワードを持ち“売る”のが上手なBA」がいるとして、ライブではこの2つのタイプのBAをペアにして配信しています。

エスティ ローダーのライブ配信事例

さらに、回ごとにテーマやコンセプトを決めて、それに沿った衣装や小物や背景を選んでいます。たとえば、マスク生活のベースメイクを紹介する際には、青空をバックに白いヘアバンドとTシャツ姿のBAが登場し、商品と並んで7時を指した時計を置きました。こうした演出のこだわりが視聴者のエンゲージメントを高め、「いいね」やコメントを引き出し、インタラクティブなコミュニケーションが生まれるきっかけになるといいます。

同時に、「作り込み過ぎないこと」も江川氏は心がけています。基本の流れを定めた台本はあるものの、あとはBAに自由にパフォーマンスをしてもらい、画面の外側から江川氏が必要に応じてサポートや指示出しをしています。たとえ失敗やハプニングがあっても、むしろそこがライブならではの面白さであり、親近感がわいたり、笑いをとるきっかけになるので、日頃からBAには「失敗しても大丈夫」と声がけをしているそうです。

エスティ ローダーではライブ配信終了後も、「見逃し配信」として再配信したり、ライブ動画をアーカイブに保存していつでも見られるようにしており、その場合でもカットや修正は施していません。

江川氏は「ライブコマースを視聴する消費者が知りたいのは、専門的な話や正確な情報ではなく、素のBAであり、BAが何をしているのか、何を言うのかに期待してアクセスしている」として、BA自身が自分らしさを表現しつつ楽しみながら配信できる環境づくりが重要だと語ります。

トライアルアンドエラーで走りながら進化させる

一方、福岡は「事前トレーニングや座学で知識を身につけることはもちろん大切だが、お客様の反応がないと感覚的にわからない。とりあえずオンラインカウンセリングをやってみる。そのなかで美容部員はノウハウを覚えて成長していく」と話します。

20205月、@cosmeTOKYOの休業中、コロナの第1波の時期にオンライン接客をスタートしたなかで、オンラインによるカウンセリングに顧客が求めているものはさまざまであることを、福岡は実感したといいます。「外出自粛をしている子育て中の方が“大人と会話がしたかった”という理由で申込んだり、逆に真剣に買い物をすることが目的という方もいた」ことから、こうした異なる要望に応じていく形で、「とりあえず」でやってみたオンライン接客を、トライアルアンドエラーを繰り返し、前述したように気軽に相談できる15分のカウンセリングや、店舗でショッピングをしている気分が味わえるお買い物コンシェルジュのようなサービスにと分化していきました。

シンポジウムの最後の「思うような結果が出なければやめて、違うアプローチを試せばいい。DXは気楽にやろう」という坂井の言葉に代表されるように、入念な準備をして社内調整を万全にしなくとも、必要があると思った時点でできることから化粧品販売DXの第一歩は踏み出せるのです。

画像提供:ダイエット&ビューティーフェア事務局(インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社)