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ウェビナーから考える、新しいビジネス体験を創造するDXの役割

作成者: @cosme for BUSINESS編集部|Dec 21, 2021 3:00:00 AM

WWDJAPANBeautyTech.jpが共催し、ファッションと美容業界の関心事や課題をともに考えていく共同企画ウェビナーの第2回目は、「先行企業と考える DXによるビジネス拡大の可能性」をテーマに取り上げました。ゲストには、DXにより新しい顧客体験の創出を実現している、コーセーとCHOOSEBASE SHIBUYAのプロジェクト責任者を迎え、なぜ今、DXが必要なのか、またスピード感をもって推進するためのポイントなど、多くのヒントが語られました。

20211126日に開催されたウェビナーには、株式会社コーセー 情報統括部 グループマネージャー 進藤広輔氏と、株式会社そごう・西武 CHOOSEBASE SHIBUYA ディレクター 伊藤謙太郎氏がゲストとして登壇。WWDJAPAN編集長 村上要氏とBeautyTech.jp編集長 矢野貴久子が進行を務めました。

どうやるのかではなく、「なぜ」やるのか

ウェビナーではまず、村上氏が今回のテーマにDXを取り上げたわけを説明しました。社会全体がDXの推進が急務であるという空気に包まれるなか、「どうやって自社のDXを進めたらいいのかわからないという声が聞かれる。だが、どうやるのかではなく、なぜやるのかを最初に考えるべきだ」と村上氏は強調します。「この点が意外に抜けやすい。だが、why(=理由)がないと、DXをやること自体が目的になってしまう」として、DXの本来の主旨である、デジタルが可能性を押し広げるかもしれないビジネスについての再定義が欠かせないと指摘します。

コーセーの進藤氏もまた、デジタイゼーション(数値化・データ化・データ蓄積)とデジタライゼーション(分析・解析から得られるインサイトの活用)を掛け合わせることによる、「全社で取り組むニュービジネスの創造とニューノーマルの確立」こそが、デジタルトランスフォーメーション(DX)であると定義します。デジタライゼーションをすることがDXであると誤解している企業も少なくないなか、DXトランスフォーメーションを起こすこと、すなわち、これまでにない新しい価値や体験を創りあげることに、その目的があるというのです。

BC のカウンセリングを新次元に導くプラットフォーム

コーセーでは、20219月、独自開発したビューティコンサルタント(美容部員、以下BC)とユーザーをつなぐカウンセリングプラットフォーム「WEB-BC SYSTEM」を始動させ、「DECORTÉ(コスメデコルテ)」のサービス「DECORTÉ Personal Beauty Concierge(コスメデコルテ パーソナル ビューティ コンシェルジュ)」として導入しました。

同プラットフォームは、コーセーの全ブランドを横断する、オンラインとオフライン共通の1顧客1IDの「KOSÉ-ID」を紐づけることにより、登録した個人の購入履歴からカウンセリング歴などの顧客データ管理を一元化するものです。これにより、BCはより顧客一人ひとりにパーソナライズした接客ができ、顧客側はどこで購入してもスムーズで質の高いショッピング体験が得られます。

あわせて、バーチャルトライオンや肌診断などのオンラインツールはAPIで連携できるので、たとえば、おすすめのリップカラーを顧客の顔にのせながらカウンセリングを行うなどが可能になります。同時に、リアルな場での化粧品特有の繊細な表現を再現するため、画質を通常のオンライン会議ツールの倍の160コマ(HD/FullHD×60fps)とし、ラメのキラキラ感が感じられたり、肌の質感などより現実に近い状態でみえる動画を実現しました。こうした設計はすべて「デジタルを活用することで従来のカウンセリングサービスを超える、BCのニューノーマルを確立することに向けたチャレンジだ」と進藤氏は語ります。

WEB-BC SYSTEMはこのように、共通アプリ、共通インフラ、共通ガイドラインを組み込むことで、すべての事業部とブランドが利用可能な標準化されたシステムであり、今後はコーセー傘下の他ブランドにも展開する予定です。ブランド自体はそれぞれの世界観がありクリエイティブやマーケティング戦略は個別で良いが、システムは標準化すべきと考える進藤氏は、「システムはみんなで使えれば基本的なノウハウも共有でき、何より楽しい。それにテクノロジーを集約すればコストも削減できる」といいます。

顧客とブランド双方に新体験をもたらすOMOストア

一方、大手百貨店そごう・西武が西武渋谷店にオープンした「CHOOSEBASE SHIBUYA」はリアル店舗とECを連動させたOMOOnline Merges with Offline)ストアです。カフェなどの常設ショップのほかに、6カ月ごとにテーマを設定し、テーマにあったブランドや企業の商品をキュレーションして紹介・販売しています。

CHOOSEBASE SHIBUYA店舗風景

店舗を訪れたユーザーは、展示する商品に添えられたQRコードを自身のスマートフォンで読み込みWebカタログ(店内専用ECサイト)の商品情報を見るほか、テーマにもとづき店内に掲示された、ユーザーの理解や共感を促すためのクリエイティブや、Webカタログ内の記事&写真コンテンツを閲覧することで、オン/オフラインの境目をシームレスに行き来し、より豊かな買い物体験が楽しめる仕組みです。購入もWebカタログからでき、支払いはキャッシュレス、自宅への配送や、現地での商品受け取り、あるいはWeb決済して店舗で受け取ることも可能です。

店頭に設置されたAI分析カメラや、Webカタログ、キャッシュレス決済、バックエンドの配送・出店管理システムなどが連動して機能し、CHOOSEBASE SHIBUYA側が商品をすべて管理してリアルとECの両方で展示と販売を一括して担うSaaS業態としており、出店ブランド側の作業は、販売商品のシステム登録と商品納品時の店舗への商品発送のみです。顧客だけではなく、出店ブランドにとっても新たなビジネス体験が生まれているところが、CHOOSEBASE SHIBUYAの最大の特徴です。

同プロジェクトを率いた伊藤氏は「百貨店では、店頭にある商品が自社ECでは販売されていないことも多い。店頭とECの在庫を完全に連動させることで、顧客と企業双方にとっての機会損失を防げる」ことを利点の1つにあげます。あわせて、AI分析カメラとQRコードのデータからは、どんな層の顧客がどのような動きをするのか、たとえば手にとったけれど買わなかった商品など「想像以上に色々なデータが集まる」として、それにもとづき「商品を代えるとか、価格を見直すなど次の一手に結び付けられる。ここに価値がある」とします。

社内が一丸となりDX施策を進めるためのポイント

進藤氏はAWS出身、伊藤氏は大手広告代理店、IT企業勤務と、ともにIT業界での経験と実績を持って美容・小売業界に転身した共通点があります。いずれも短期間かつ少人数スタッフで実装までこぎつけているものの、デジタルに明るい人材ばかりではない事業社において、周囲の理解を得てチームが一丸となりDX施策を立ち上げるには、それなりの苦労もあったことは想像にかたくありません。

この点について進藤氏は「パンデミックで店舗が休業しBCが働けなくなった。『デジタルで、何かできないのか』という上からの声でプロジェクトがスタートした」と明かし、経営陣の危機感が推進の原動力となったと話します。戦後まもない1946年創業のコーセーは、美を通じて人々に夢と希望を与え続けることを使命としてきました。その意味において、販売・接客を担うBCは「もっとも重要な会社と社会の美のインフラ」と位置付けています。社長が日頃から「BCを輝かせたい」という思いを抱いており、この意識の高さがWEB-BC SYSTEMの後押しになったといいます。

DECORTÉ Personal Beauty Conciergeでの
カウンセリングイメージ 
画像提供:コーセー

具体的には、進藤氏は「オンライン=インターネットの大きな可能性、ビジネスそのものを変えられる力があることを知ってもらうためのワークショップ」を、関係部署のスタッフ向けに開催しました。「オンラインでBCが働く未来」がみえてくるにつれ、周囲の反応は好意的な驚きに変わり、ビジネスをパワーアップするデジタルへの理解が進みました。「(デジタルに)馴染みのない人がインターネットの可能性に気づくと、新たな視点や発想が加わって、オンラインでできることがさらに増える」として、進藤氏はみんなで一緒に未来を考えていくことが大切だといいます。

伊藤氏もまた、多種多様な商品を取り扱いつつ各商品の魅力を全体のなかでみせていくという、百貨店の一番の強みである「編集力」が活かされるメディア型OMOストアという概念が、最初はなかなか分かってもらえなかったと話します。「(ストアの目指す)行き先がみえない」とか「それで数字が上がるのか」という疑問も出されました。そこで、伊藤氏は「お客様のこんなことを求めている”“こういうことができればいいのにという声を集め、デジタルによって、こうした顧客の要望が叶えられる可能性を提示」しました。顧客の期待値の高さをみせることで、リアル店舗とECを垣根なく行き来して商品と出会う新しい顧客体験を生み出し、購入場所や受け取り方法の選択肢の広さという利便性をあわせ持つ、「ブランドと消費者をマッチングするCHOOSEBASE SHIBUYA」を社内の人々が思い描きやすくしたのです。

CHOOSEBASE SHIBUYA店舗風景

データを集める前に、データ収集が必要な理由と目的を設定

今回のウェビナーに先駆けて、視聴参加予定者にDXに関する質問や悩みをアンケートで聞いたところ、多かったのが「集めたデータをどう活用するか」でした。

これに対し、進藤氏は「データを使って何をしたいのかをまず決める」と、出口戦略を立ててからデータの収集をするべきだとします。同様に伊藤氏も、「仮説なり目的なりを決めてデータを集める」として、たとえば「顧客体験をよりよくするには、どんなデータを集めればよいのか」というように、データありきをやめる、発想の転換を勧めます。

冒頭で述べたように、DXとはデジタルによって、これまでのオフラインでのサービスを凌駕するような新たな体験やビジネスを創造することを意味します。オンラインはオフラインの代替えではありません。実際に顧客は、リアルでもオンラインでも自分のペースで買い物をしたいと考えています。その選択肢を広げるのがデジタルといえるでしょう。その先にあるのは、オンとかオフとかを感じさせず、その場で顧客が意識せずに自分にふさわしい方法が選べるシステムであり、サービスなのです。

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