2023年6月30日開催の化粧品メーカー限定ウェビナー「1アイテムから中国市場に参入し、売上を最大化させる方法」では、アイスタイルグループの子会社であり越境MCN事業を展開するOver The Borderの代表取締役 倉島應介が最新の中国EC市場動向や、同社運営の@cosme越境ECを活用した中国市場進出の事例をご紹介しました。ウェビナーの模様をダイジェストでお伝えします。
アイスタイルグループのOver The Borderは 2020年設立の越境MCN事業運営会社で、日本から中国の生活者向けにKOLやKOC(ライバー・インフルエンサー)を育成・登用し、ショート動画、ライブコマースをプロデュース・発信して、中国のECプラットフォームでの拡販へとつなげるマーケティング施策を実施しています。今回のウェビナーでは、Douyin(中国版TikTok)に代表されるインタレストコマースの本格的な台頭が見えてきた2023年の618セールの振り返りや、そのDouyinの@cosme海外旗艦店を活用し「1アイテムから中国市場に参入し、売上を最大化させる方法」について主に紹介しました。
11月11日の「ダブルイレブン(双11)」に次いで中国で2番目に大規模なECセールとして知られる6月18日の「618」。Over The Border 代表取締役 倉島應介はウェビナー第1部で2023年上半期を振り返り、「1番のトピックは618商戦の各プラットフォーム間での競争が史上最も激化したこと」と紹介しました。
近年618は6月18日当日だけでなく、その前後の期間にもセール期間を伸ばして、約1カ月にもおよぶ商戦となっています。今回もアリババの「タオバオ(淘宝)」や「Tmall(天猫)」、618の元祖である京東商城「JD.com」、ソーシャルコマースの「Pinduoduo(拼多多)」や「RED(小紅書)」、ショート動画の「Douyin(抖音)」や「クワイショウ(快手)」、といったプラットフォームが5月中旬には告知を開始し、セールを盛り上げ始めました。
「とくに京東商城とアリババは『史上最大の投資』を強調していた」と倉島。「もともと618はJD.comが発祥で、そこにいろいろなプラットフォームが次々に参加して、盛り上がってきた経緯がある。JD.comは今年20周年で、その意味でもかなり力が入っていた。自社で独自の物流網を構築して即日配送を行うなど、『技術のJD』と呼ばれる強みを活かしたサービスを618でも展開した」(倉島)。
いっぽうアリババのタオバオではライブコマースイベントにプロサッカー選手のリオネル・メッシ氏を呼ぶなど、華やかな演出で生活者を引きつけました。
こうして2023年618商戦はGMV(流通取引総額)が過去最高の7,987億元(約16兆円)を記録しました。ただ、「投資の大きさに関わらずGMVの伸び率自体は下がっている」と倉島は指摘し、売上の構造や、各プラットフォーム間の競争の解説に移りました。
2023年618のGMVをプラットフォーム別にわけると、その8割弱がTmall、JD.comなどの統合型型EC、2割強がDouyinやクワイショウ、REDなど「インタレストコマース」に分類されるプラットフォームでした。競争の構造が、統合型型ECの1強から、インタレストコマースのプラットフォーマーの力が強まり「統合型型EC対インタレストコマース」という形に変化してきていると倉島は言います。
「欲しい商品をユーザーが意図的に検索をして購入に至る統合型型ECに対し、ショート動画やライブ配信などのコンテンツを見て、商品を発見、検索、比較して購入に至るインタレストコマースが新しい文脈のECになっている。プラットフォーム別のトラフィックを見ると、タオバオ、JD.comとも史上最大の投資を行っただけあり、618に合わせてトラフィックの伸びは顕著。いっぽうインタレストコマースの代表格であるDouyinのトラフィックは618前から安定して高く、618期間にはこれらがトラフィックを競い合う熾烈な争いとなった」(倉島)
さらに、各プラットフォームのアプリの使用状況やその割合の比較を見てみると、「複数のアプリを併用するユーザーがいる一方で、シンプルにタオバオだけ、Pinduoduoだけを使っているユーザーと、Douyinだけを使っているユーザーが非常に拮抗しているように見える」と指摘。「統合型型ECであるアリババとソーシャルコマースのPinduoduo 対 インタレストコマースのDouyinという新しい勢力争いの構造が見えてくる」(倉島)といいます。
2023年5月単月の中国ECの美容カテゴリーの売り上げ比較では、Douyinがアリババ(Tmallとタオバオ)の売り上げを僅差で上回ったというデータもあり、競争の構造の変化はここからも見てとれます。
こうしたことから、統合型ECプラットフォームが成熟を迎え、若い世代を中心に使われるようになったインタレストコマースの本格的な台頭が見えてきていると倉島は言います。「もちろん統合型ECプラットフォームの売り上げ規模は依然として大変大きい。物流に強みを持っていたり、ユーザーに対してサービスの向上を図っている点で、さらに強みを増すだろうという見方もできる。しかし、従来の『ユーザー、ブランド、プラットフォームの関係性』は市場の構造とともに変化していくだろう。今後もこうした変化をキャッチアップしながら事業を展開していきたい」と倉島は第1部を締めくくりました。
それでは具体的にOver The Borderは中国EC市場において、どのようなマーケティング支援をおこなっているのでしょうか。ウェビナー第2部では具体的な事例を紹介しました。
アイスタイルグループではアリババの越境EC、Tmall Globalに2015年、いち早く@cosme海外旗艦店をオープンしたのを皮切りに、REDやKaola(考拉海購)、 JD.comなど主要なECプラットフォームに出店してきました。加えて、Weibo(微博)やWeChat(微信)などSNSにも@cosmeアカウントを開設。総フォロワー数は280万人を超えます(2023年7月現在)。Over The Borderでは、これらECチャネルとSNSを連動させたマーケティング施策を実施しています。
中でも近年注力しているのがDouyinです。2021年3月に公式アカウントをDouyinに開設、同10月には、Douyin越境ECの出店第1号として@cosme海外旗艦店をオープンしています。同アカウントから日本で作成した商品紹介のショート動画を毎週3本投稿したり、東京・原宿の@cosme TOKYOのスタジオから毎週2回ライブ配信したりして日本の化粧品に興味のあるコアなファンやリピーターを醸成。ECでは取り扱うすべての商品のLPを日本からクオリティコントロールをおこない、フルカスタマイズで作成しています。
また、Douyinの@cosme海外旗艦店の商品を在日KOLやKOCらがそれぞれのアカウントのライブ配信を通じて販売するソーシャルセリングを月間約2,000回実施。在日KOLやKOCのなかでも「海外達人」と呼ばれるトップライバーを@cosme TOKYOに招いてのタイアップのライブ配信も随時行っています。「中国在住のライバーに比べて、商品の魅力や特徴などアピールして欲しいところを事前にこまやかに打ち合わせしたり、配信時にそばにいてサポートできるところが強み。最近は1回の配信で1,000万元(約2億円)を売り上げるライバーも出てきている」と倉島は言います。
>>Over The Borderが中国市場へ届ける日本ブランドの魅力。抖音(Douyin)の第3世代EC インタレストコマースとは
Douyinの@cosme海外旗艦店には1SKUから商品の出品が可能で、上記のプロモーションを掛け合わせて利用することで、はじめて中国EC市場に進出するブランドでも無理なく認知を拡大し、売上を最大化していくことができます。
あるフェイスマスクのブランドは2022年末からDouyinの@cosme海外旗艦店に商品を出品。国内でも話題となっていた商品であったことから、@cosme TOKYOの棚に並んでいる実際の様子を在日のトップKOLに紹介してもらうショート動画を作成しました。また@cosme TOKYOからタイアップのライブ配信も実施。その結果、Douyinの@cosme海外旗艦店において2023年5月、6月に3.5万個を売り上げ、Douyin 全体の618セールのランキングでは越境マスク部門第2位となりました。
倉島は「まだ1SKUしかないブランドの商品でも、すでに大きなブランドのこれから火をつけたい商品や新商品でも、それぞれの売上をどう最大化していけるかを一緒に考えていきたい」と意気込みます。「Douyin のDAU(デイリーアクティブユーザー数)は6億人を超えていて、Z世代だけでなく、子どもからお年寄りまで、幅広く使われている。たとえば40代50代向けの商品を売り出したいとして、それであれば40代50代の顧客を沢山抱えているKOLやKOCにタイアップを依頼すれば良い。それらのKOLやKOCを通じ、@cosme海外旗艦店が中国の40代50代生活者と商品の出会いの場になるだろう。そこから順調にスケールして、ブランド単独の海外旗艦店を出店しようとなったときもOver The Borderで支援が可能。どんなブランド、商品でも気軽に相談してもらいたい」といいます。
>>Over The Borderとトランスコスモスによる中国のDouyin EC Global進出支援についてはこちら
第3部では視聴者から寄せられた質問に倉島が回答しました。いくつかの質問と回答を抜粋してご紹介します。
A: 弊社では「〇〇だから売れる/売れない」という判断を事前にはしていない。その商品あるいはブランドのどこに独自性というか、ユニークな要素があるのかをまずは突き詰めて考えてみて、そこからどういう風にやっていくことができるのかを一緒に沢山考えることができればと思う。
A: 途中でやめてしまうことがすごくもったいないと思う。本当に日々色々なことがある業界で、トレンドもプラットフォームも売り方も人も目まぐるしく変わっていく。途中で止めてしまうと、それまで積み上げてきたものが生かせないままになってしまいもったいない。
ただ、やはりどうしてもビジネスであり、予算も決まっていると思う。あまり大きくかけて大きくやるというよりは、少しずつ色々な施策を試しながらトライアル&エラーを繰り返すほうが良いのではないか。
A: 法律に関しては、中国に5年駐在していたときにも越境ECの制度が色々と変わり苦労があった。最近では一般貿易系のNMPAの申請などが非常にハードになってきている。法律は避けて通れないため、弊社でも戦い方を模索しながらやっている状況だ。
A: KOLやKOCの起用は今のこの時代に最適なマーケティングのやり方の一つだと思う。オールドメディアや、中国に店舗を出してニューリテールとしてやっていくとか、もちろんそういった選択肢もあると思うが、なかなかそれらを実施できるブランドは限られるのではないか。
その点KOLやKOCは比較的やりやすい。最近は実力があったり人気があったりするKOLやKOCによっては、依頼しても引き受けてもらえないケースが増えてきている。KOLやKOCは本当に市場の販売を担う無くてはならない存在になっている。いかにKOLやKOCをうまく使うかが鍵だ。例えば弊社であれば閉店後の@cosme TOKYOにKOLやKOCを呼んで、そこからライブ配信を行うというのが一つアイディアとしてあると思う。メーカーさんであれば、自社オフィスや工場、新商品発表会の会場などにKOLやKOCを呼ぶのはどうか。ちょっと一辺倒な答えかもしれないが、KOLやKOCを起用することがまずは良いと考えている。
A: 国潮トレンドは2023年上半期も確実に続いており、618でも顕著だった。国潮は「完美日記」や「花西子」など、もともとメイクアップブランドに多かったが、最近ではスキンケアのブランドも登場して、すごく伸びており、「Simpcare(溪木源)」などTmallのトップ20に入るようなブランドも生まれている。シンプケアはまだ設立から数年だが、複数の投資を受けて、それを全てR&Dに投下し最先端の研究をしているブランドだ。マーケティングではなく、R&Dに注力しており、その点が中国の生活者に支持されているようだ。
A: たしかにDouyinは新規顧客の獲得が主で、正直なところDouyinのCRMのリピート率は低い。ただ弊社はDouyinだけでなくTmallやJD.comなどの店舗も持っている。Douyinで商品を知って購入した後、Tmallなど他の店舗でリピート購入するなどのケースが考えられる。