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化粧品の中国市場開拓でますます強まるDouyinの存在感、”処理水”報道の影響も踏まえて新しい活用の可能性を探る

作成者: @cosme for BUSINESS編集部|Dec 27, 2023 8:00:00 AM

2023年11月29日開催のウェビナー「Douyin越境ECの今と中国事業戦略」では、中国主要ECのビッグデータを保有し同市場動向の可視化に取り組むNint  、日本最大のBPO企業で中華圏でもサービスを提供するトランスコスモス、Douyin EC Globalに「@cosme海外旗艦店」を出店するアイスタイルグループの越境MCN・Over The Borderが登壇。それぞれの立場から2023年中国独身の日セール(W11)の振り返りや、処理水報道の影響、またそこから見えたDouyinの新しい活用可能性を語りました。ウェビナーの内容をダイジェストで紹介します。

第一部では、株式会社Nint 経営戦略担当 堀井良威氏から、2023年10〜11月の中国独身の日セール(W11)におけるスキンケアおよびメイクアップ化粧品のEC市場動向や、美容に限らずDouyin EC各ショップはどんな売れ方をしているのか、売上上位1,000のショップをNintが分析して、見えてきた4パターンを紹介しました。Nintは2018年設立。上海と東京に拠点を置き、中国や日本の主要ECのビッグデータ分析から同市場動向を可視化。それにより日本ブランドの中国進出や中国ブランドの日本進出をサポートしています。「中国に進出している日系ブランド上位70%がNintのデータを利用している」と堀井氏は話します。 

第二部では、株式会社Over The Border 代表取締役 倉島應介が、実際に Douyinに出店しているリテール事業者としてのこれまでの活動や、2023年8月24日に福島第一原発処理水の海洋放出が報道されて以降の近況を語りました。 

第三部では、トランスコスモス株式会社 事業開発総括 GEC・DS推進本部セール&マーケティング1部2課 田村京太郎氏が、クライアント企業を支援するなかで感じた処理水報道の影響について共有するとともに、「ブランドごとのDouyin運営の最適解」をテーマにブランド事業者へ向けて今後のヒントを語りました。トランスコスモスとOver The Borderは2023年3月に資本業務提携を締結。Over The Borderが蓄積した@cosme海外旗艦店の運営ノウハウを横展開するDouyin支援サービスを共同で展開しています。

2023年W11における日本製品の不調は、消費者心理の変化よりブランドのマーケティング投資抑制によるものか

第一部でNint 堀井氏は、2023年W11について「マイナス成長と言われていたが、EC市場全体ではプラス成長と推計している」と振り返りました。

主要EC各社のW11結果

「天猫、JD.comなど、現在はGMV(流通取引総額)の数値を公開していない伝統的なECでもGMV、決済数、ユーザー数が増えたと発表した。Douyinをはじめとする、新しいコンテンツ型ECの成長率も、公表されている数字だけをみれば、総じてプラスだった」(堀井氏)

しかしNint の分析によると、JD、アリババ、DouyinにおけるW11プレセール開始から本セール終了までの期間(2023年10月24日〜11月11日)のスキンケア化粧品カテゴリーの売上金額は、全体で前年同期比マイナス15%、日本ブランド売上トップ1,000ブランドの売上合計は前年同期比マイナス46%と大きく減少しました。

中国ECにおけるスキンケアカテゴリー日本ブランド売上トップ1,000ブランドの合計販売金額の推移グラフ。特に10月31日プレセールの落ち幅が顕著

またメイクアップ化粧品カテゴリーの売上金額は、全体で前年同期比プラス7%、日本ブランド売上トップ1,000ブランドの売上合計は前年同期比マイナス8%で、全体ではプラス、日本ブランドだけではマイナスとなりました。

中国ECにおけるメイクアップカテゴリー日本ブランド売上トップ1,000ブランドの合計販売金額の推移グラフ。メイクアップでも10月31日のプレセールの売上の落ち幅が大きいものの、11月2〜4日など前年を上回る売上となった日もあった

この状況には福島第一原発処理水の海洋放出についての報道が多少なりとも影響しているとしたうえで、堀井氏は、処理水問題が報道された2023年8月からの日本ブランドのカテゴリー別売上推移グラフを示しながら、「国慶節(10月1日〜7日)明けまでは、日本ブランドは全てのカテゴリーでマイナス幅が拡大していたが、その後は縮小し、底打ち感があった」と指摘。 

そして「一概には言い切れないが」と前置きしながらも、「Nintの分析では、今回のW11の売上の落ち込みは『日本ブランドを買いたくない』という現地の消費者感情より、各ブランドのマーケティング費用の抑制による影響が大きかったとみている。8月からの報道の状況を見て、各ブランドで9月にはマーケティング投資抑制の意思決定をされていたと思うが、数字を見る限り、実はそんなに抑制をする必要はなかったのではないか」といいます。また、今後も「10月の回復の力強さからして、何もなければ、2024年春には前年並みの売上水準に戻るのではないか」(堀井氏)とします。

2023年8月からW11までの日本ブランドのカテゴリー別売上高推移。10月にはマイナス幅は一時縮小している

Douyin ECで見えてきた4つの販売パターン

次に堀井氏はDouyin ECについて説明しました。

堀井氏は、2019年にDouyin ECがリリースされて早4年が経ち、中国ECに進出している日本ブランド上位1,000ブランドのうち、約700ブランドの商品がなんらかのかたちでDouyin ECでも流通しており、500ブランドはDouyin ECにブランド旗艦店を持っている、としたうえで、「『出せば売れる』先行者利益が狙える時代は終わった。これから進出を検討しているブランドは、先行者の事例をヒントに、細かな成長戦略を立てて追随者になり得るかがポイント」とします。 

また堀井氏は「以前は、Tmall やJD.comで販売する値段を高く設定し、Douyin EC販売する値段を安く設定するブランドが圧倒的に多かった。Douyin ECをアウトレット店舗として位置付けていたり、『Douyinは安く売るプラットフォーム』と認識していたブランドも多くあったと思う。しかし今やそのイメージは変わってきている」といいます。

Nint推計値(2022年〜2023年、1月〜10月数値)によれば、Douyin EC上位100ブランドの旗艦店における平均決済単価は、TmallとJD.comの2大プラットフォーム旗艦店平均よりも高いブランドの数が43、低いブランドの数も43と、現在は拮抗関係にあることがわかりました。

大手2プラットフォーム平均とDouyinの平均決済単価比較

2大プラットフォームの旗艦店の売上平均とDouyin ECの旗艦店の売上を比較するとDouyin ECのほうが大手2プラットフォーム平均より高いブランドの数が47、低いブランドが57でした。「まだ2大プラットフォームの方が多めに出るブランドの方が多いが、それでもDouyinが追い上げてきている」(堀井氏)

大手2プラットフォーム平均とDouyinの平均販売金額比較

そして、Douyin ECの各ショップではどんな販売計画が立てられているのか、 DouyinECの売上上位1,000のショップをNintが分析して、見えてきた4パターン「①起爆型」「②商戦型」「③安定型」「④忍耐型」を紹介しました。

販売計画の4パターン

堀井氏は「①起爆型は、初期投資を最大に、垂直立ち上げで、残余効果を狙っていくタイプ、②商戦型は618やW11をはじめとした伝統的プラットフォームの商戦に合わせたマーケティングを行うタイプ、③安定型はつねに右肩上がりで成長するタイプ、④忍耐型は最初全く売れないが、突然売れる。いつかやってくる転換期を見据えて、長い助走期間を持つタイプ」と説明。 

の安定型を、おそらく各社いちばん狙いたいと思う、としながら、④忍耐型の好事例として「足力健」という中国のシニア向けシューズブランドの事例を紹介しました。

足力健

足力健は2012年設立、オフライン店舗2,000店を持つ規模感ながら、2023年現在は月間売上の平均3割、多い時で5割がDouyin ECで発生しているといいます。堀井氏は「足力健は、だれもがDouyinに65歳以上がいるとは考えていなかった2020年からDouyinに参入し、ずっと耐えてきた。それは『じきにDouyinをシニア層も見て買い物をするようになる』ということを見越した戦略だった」と紹介。いまはシニア層だけでなく「履きやすい」と若い層にも支持が広がっている状況だといいます。 

堀井氏は、先述したように、Douyin ECにおいての価格設定や売上がTmallやJD.comなどの伝統的プラットフォームより高い/低い、①〜④の販売戦略などによって、Douyin ECのショップのあり方は本当に多様で、それぞれが独自の発展を考えることができる自由さがあるとします。 

そして「日本ブランドは②商戦型が多い。Douyin ECより先にTmallやJD.comに進出していることが多く、在庫の持ち方、キャンペーンの設計の仕方などにおいて、それらのプラットフォームのやり方を引き継いでいるためだ。しかし、どうせ同じセール時期に売るのであれば、(TmallやJD.com、そしてDouyin ECと)3プラットフォームに同時に投資する必要はないのでは」と提言。Douyin ECを利用するブランドに向けて、Douyin ECでの年間販売計画をもう少しフラットにすることを考えたり、Douyin EC独自の販売戦略を打ち出してみてもよいのではないか、そうすることで商戦に依存しない③右肩上がりの安定型の成長につながるのではないか、とアドバイスしました。 

また、「Douyin ECでの販売では『ブランド力はそれほど大きな要素ではない』ということも顕著だ。2022年に最も売れたアパレルなどでみると、ノーブランドが上位を占めた。ブランド力がなくてもDouyinでは勝てるという相関関係がデータ上ある。知名度がないブランドであっても、しっかり訴求できれば勝ち目はある」としました。 

処理水報道からDouyin ECのこれまでと違う可能性を発見したOver The Border

第二部でOver The Border 倉島は、「年々Douyinの影響力は高まっている。2023年5月単月には、大きな商戦は特に無かったにも関わらず、アリババ(Tmall、タオバオ)の化粧品売上金額をDouyinのそれが僅差で上回った。そのような月も出てきており、アリババに代えて力をいれても遜色ないプラットフォームに成長している」とDouyinについて説明。

2021年に同社がDouyin EC Global(Douyin ECの越境EC)に出店した「@cosme海外旗艦店」は、2023年11月現在、フォロワー数13万人、総Like数30万、店舗取り扱いブランド数50、同アイテム数200SKU、店舗点数は5点満点中4.6点を獲得するまでに成長をとげています。

Douyin EC Globalの「@cosme海外旗艦店」

同アカウントは週3回、日本国内で撮影、作成したショートムービーの投稿をおこない、週2回は東京・原宿の@cosme TOKYOからのライブ配信を実施。KOLやKOCが自身のDouyinアカウントから@cosme海外旗艦店の取扱商品を紹介するライブコマースや、日本在住のトップライバーが@cosme TOKYOの店舗から、彼ら彼女たちのDouyinアカウントを用いて行うタイアップ型のライブ配信も行い、1回の配信でおよそ1億円を売り上げる事例も出てきています。

【関連記事】Over The Borderとトランスコスモスによる中国のDouyin EC Global進出支援

しかし、2023年8月以降、処理水の報道が大きな影響を及ぼしているといいます。

「Over The Borderで取り扱う商品への影響は大きく2つ。1つ目は、日本産水産物由来成分配合の商品は物流が全面停止になっていること。疑わしい商品は税関で詳しく調査され、書類審査にも時間がかかり、該当商品の輸出不可能な状況だ。また2つ目は、KOLやライバーが日本商品紹介を敬遠していること。影響力の大きいKOLほど慎重だ。毎月2,000本以上配信してきたライブ配信やソーシャルセリングは、2023年9月は大幅に減少。それでもずっと一緒にやってきたライバーと一緒に配信を行ったが、配信中に視聴者から辛辣なコメントが付いたこともあり、W11期間中も配信を自粛した。そのような状況は、現在に至るまで続いている」(倉島)

このようななかで、GMVは減少して推移していますが、一方、2023年9月の利益率は前年から大幅に上昇しました。

倉島は「マージンや広告費を削減できたこと、2021年からこつこつ続けてきた自社ライブ配信やショート動画投稿、また商品ページから、リピートや自然流入が増加したことが要因。Douyin ECのこれまでと違う可能性を発見することができた」といい、Nint 堀井氏が第一部で提案した商戦型からの脱却に同意、今後、柔軟性を持って@cosme海外旗艦店のコンテンツをより強化していきたいとします。 

そして「ライブ配信も、やりかた次第で数字が出るケースもあることがわかってきた」といい、「たとえば、2023年11月11日の配信は実施してはみたものの望んでいた数字に届かなかったが、翌12日にだめもとで試験的に実施した@cosme TOKYOのランキングタワー前から人気商品を紹介するライブ配信は予想を超えて好調だった。やりかたとタイミングの検討は必要だが、決して悲観することはないのではないか」とします(倉島) 

また、Over The Borderでは今後、KOLやKOCを招待したオフラインの商品体験イベントの開催に注力していくとします。2023年9月にコロナ収束後初めて日本で実施、同12月にも実施予定のほか、上海、香港、台湾でも開催を予定しています。

KOLやKOCを招待したオフラインの商品体験イベントに注力

「リアルな体験を通じて商品を知ってもらい、そしてそれを紹介したり、販売したりしてもらうことこそがDouyinを通じて行うコンテンツコマースの醍醐味。私たちの役割もそこにある」と倉島は意気込みます。

@cosme海外旗艦店の運営ノウハウを横展開するトランスコスモスのDouyin進出支援サービス

続いて第三部ではトランスコスモス田村氏が、処理水報道の後、クライアント企業を支援するなかで見えた情報を共有しました。

「トランスコスモスが支援する日系大手2社は処理水報道の後、インフルエンサーがライブコマースを引き受けてくれなくても、自社発信のライブに注力して売上を守った。また、ライブコマースを実施しなくても、Douyinで最近整備されたモール型の販売ページから売上が増えていた」(田村氏)と事例を紹介し、「すでに中国において一定の知名度や顧客基盤があるブランドは、このような踏ん張る戦い方ができる。一方これから仕掛けていくブランドは起爆剤としてインフルエンサーを起用できないので我慢の時」としたうえで「しかし中国市場を開拓していくうえでDouyinは今、間違いなく最重要課題といえる。今後状況の変化にそなえ、今はどう戦うべきか検討・準備期間とするべきだ」と強調しました。

日系大手2社のライブ売上の推移

日系大手2社のDouyinモール型販売ページの売上推移

ランスコスモスとOver The Borderは、2023年3月に資本業務提携を締結。Over The Borderが蓄積した@cosme海外旗艦店の運営ノウハウを横展開するDouyin進出支援サービスを共同で展開しています。「Douyin進出にあたってゴールは何かなど、最も重要な戦略策定から、ライブ販売、投稿コンテンツの制作に伴走する。@cosme海外旗艦店の先行事例としてのアセットにクライアントごとの最適解を掛け合わせることができる」(田村氏)

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