カラーコスメの大手OEMである株式会社トキワが、埼玉県川口市に工場兼ラボである「APD Lab.」をオープンし、またアイスタイルとの提携により、インフルエンサーやクリエイターのコスメブランドの立ち上げを、商品の企画・生産から販売まで一気通貫でサポートするソリューションパッケージを開始しました。
トキワは米国カーライルとの資本提携ののち、P&Gを経てヘンケルジャパン株式会社の代表取締役をつとめた経歴をもつ金井博之氏を副社長に迎え、2020年からD2CあるいはP2C(Person to Consumer)のカラーコスメ製造を支える体制を整えています。
この事業の根底にあるのは、「サステナブルであること」にこだわりぬく強い信念です。環境への配慮はもとより、思いをもったブランドが成長し続けていけるという意味での「持続可能なエコサイクル」を築くサポートをするとの意志があるのです。
「D2Cやインフルエンサー、あるいはファッション業界などからの異業種参入で毎年100以上のブランドが誕生しているが、その7〜8割が数年で事業を諦めている。着想もよく、思いが強くても、事業基盤が弱いのがその理由だ」と金井氏は明かします。
株式会社トキワ 副社長兼 トキワ米国CEO 金井博之氏
カラーコスメは種類や色版が多くなるため、その分SKUが増え、スタートアップや新興ブランドにとっては、生産管理の負担に加えて、在庫を抱えがちになるという資金面の負担が大きいのが実情です。また、カラーコスメは売れ残りや廃盤なども含め、ゴミとして廃棄されるプラスチックの量が多く、金井氏が推し進める「日本発のクリーンビューティを支える」という側面からも課題があります。
安全性や環境への影響に対し厳しい目を向けはじめた消費者意識の変化に伴い、原料に関してもよりエシカルなものが求められている今、100名以上の研究開発者を擁し、原材料の調達から処方、容器開発までを担い、年間500以上の製品開発が行えるトキワの体制のなかで、コスメ製造をめぐるさまざまな課題を変えていきたい、というのが金井氏の就任時の決意でもありました。
一連の施策は、2020年金井氏が就任して早々にスタートさせた「トキワビューティアクセラレータープログラム」に端を発しています。トキワが「スタートアップや他企業とのオープンイノベーションを積極的に展開し、新ブランドをつくりたいという個人やプロジェクトを支える」という大きなメッセージが伝わった結果、応募総数は46に上り、2021年7月には2期目もスタートしました。
【BeautyTech.jp】老舗OEMトキワが仕掛けるイノベーション第一弾、初のアクセラレータープログラム
採択企業は1,000万円相当のコスメ製造支援を受けられ、現在、1期めで採択されたプロジェクトのひとつ、インフォバーングループのクリエイティブチームThe STUDIO. Glossy & MASHING UPが、クリーンビューティブランド立ち上げを目指してトキワとモノづくりを進めています。
また、2020年11月にはOEMプラットフォーム「COSMAKE」の立ち上げを発表。最小ロット500個から処方、容器選定などがワンストップででき、最短納期30日、3色展開であれば50万円ほどの資金でブランドがスタートできるのが特徴で、カラーコスメ製造のハードルを大きく下げました。
【BeautyTech.jp】OEMプラットフォームCOSMAKEなどトキワのオープンイノベーションが加速
こうした施策に加え、2021年8月30日には埼玉県川口市に工場兼ラボである「APD Lab.」をオープンしました。APDはAgile Product Development の略で、多品種・少量生産を可能にする目的で設立されました。
APD Lab.
「トキワは、岐阜県中津川地区に主力の4工場を持ち、原料調達、処方、調合から完成品まで一貫した製品作りを行っているが、このAPD Lab.は、その主力工場で半製品化されたパーツを揃え、仕上げ工程を行う」と、金井氏は説明します。
そして、化粧品を作りたい企業や個人がAPD Lab.で実際に自分の目で確認しながらパーツや色を選び、化粧品製造の専門家たちと相談しつつイメージするものへと形作っていくことができるよう「TOKIWA KOBO」が併設されました。
TOKIWA KOBOでは実物を見ながら開発者と直接相談が可能
現在、TOKIWA KOBOで作れるものは、サンスクリーンやファンデーション、アイブロウ、眉マスカラ、アイライナー、マスカラ、アイシャドウ、チーク、リップなど幅広く、1万種類以上の製品組み合わせバリエーションがあるといいます。
原材料の段階からクリーンビューティを意識した処方で、パッケージは環境にも配慮し、アイラインなどのいわゆる「軸もの」は付け替えが可能なカートリッジ式も用意され、ブランド側が選択可能です。アイシャドウパッケージには近々紙製を用意する予定もあり、サステナブル志向のブランドをサポートします。
軸ものはカートリッジ式も選択可能
前述のCOSMAKEが、ある程度絞ったセレクションの既存パーツを組み合わせる製造により、少ない資金でテストスタートできるソリューションであるのに対し、APD Lab.では実現可能な製品のバリエーションが大きく広がりました。最低資金100万円で最小ロット1,000個、最短納期は約60日で製品化ができるとしています。
そしてAPD Lab.では、製造工程にブランド側が立ち会うことも可能にしました。ブランドの作り手に化粧品製造に対する理解を深めてもらう狙いのほか、たとえばインフルエンサーが「いま、このようにして製品がつくられている」と動画収録し、フォロワーとのコミュニケーションやPRにも使えることを想定しています。
APD Lab.の製造工程の様子
もうひとつ大きな特徴は、このAPD Lab.が倉庫と出荷の機能も持つ点です。ブランド側が別途倉庫を準備しなくても、ここからダイレクトに購入者への発送が可能になる仕組みを構築しようとしています。これが意味するのは、トキワが生産管理や在庫管理を把握できるということです。D2Cブランドの製造パートナーとして売れ筋をつかむと同時に、ある程度需要予測が立てられ、物流組織構築も容易となります。
その背景には「(オリジナルのカラーコスメを作りたい)インフルエンサーやD2Cブランドが、こうした生産管理の部分を得意とする人ばかりではないと思う。在庫をためこまないことは、人や資金といったリソースが限られる新興ブランドにとって非常に重要で、これによりキャッシュフローの改善が見込める」として、ブランドの作り手がマーケティングに専念できる環境を整えたいという金井氏の思いがあります。
このAPD Lab.の始動に先立つ2021年8月20日には、株式会社アイスタイルとトキワが提携し、商品の企画・生産から販売まで一気通貫でサポートするソリューションパッケージ「@cosme creator support program(パイロット版)」の開始が発表されました。
トキワがインフルエンサーやクリエイター、D2C事業者向けの製造支援を担当。一方、アイスタイルが、@cosmeでのマーケティング支援をはじめ、リアル店舗「@cosme STORE」での期間限定の売場展開や、国内最大級の化粧品専門EC「@cosme SHOPPING」でのパイロット販売など、マーケティングと販売支援を行うことでトータルプロデュースをするものです。
アイスタイルグループでは、美容特化のMCN(マルチチャンネルネットワーク)である株式会社istyle meが美容やライフスタイル領域に強いインフルエンサーネットワークを持っており、美容企業のインフルエンサーマーケティングを展開している強みもあります。感度が高くトレンドを創出する勢いのあるインフルエンサーたちの商品化のアイディアを、アイスタイルがいち早くピックアップしてトキワのD2C支援へとつなげ、化粧品製造の間口を広げるとともに、販売支援により出口でもブランドをバックアップすることを目指しています。
画像提供:株式会社トキワ