美容分野のビジネス展示会「ダイエット&ビューティーフェア2022」会場で行われたビューティテックシンポジウムでは、ポーラのブランドマーケティング責任者やアイスタイルリテールのマネジメントらが登壇。デジタル化が進む時代だからこそ、その重要性が改めて問い直されているリアルな店舗と顧客コミュニケーションのあり方を語りました。同セッションの模様や、アイスタイルが出展したブースなどを紹介します。
2022年9月26日〜28日、東京ビッグサイトで開催された美容・健康関連ビジネスの総合展示会「ダイエット&ビューティーフェア2022」において開催された、第5回ビューティテックシンポジウム。その第1部「人と店舗の価値を引き出すDX推進の最新事例」では、株式会社アイスタイル プロデューサーの福岡さくらが、オムニチャネル化やエンターテイメント性を重視した顧客体験設計など、グローバルと日本の化粧品小売店舗で現在進められている施策を紹介しました。
福岡は、2022年の美容の現場におけるデジタライゼーションが2021年から大きく進化したと指摘。「購入履歴などの顧客データに、AI肌診断やARバーチャルトライオン、ビデオ会議などのデジタルツールを掛け合わせて、リアルに対面しなくとも的確なカウンセリングを実現することで販売の現場でのデジタル化を進めた2021年に対し、2022年は、店舗への客足が少しずつ戻ってくるなか、実店舗における顧客体験をどう設計するか、そして、そこに介在する販売スタッフをどう活用するかが、大切なポイントになっており、価値の再定義が図られている」(福岡)としました。
そして、企業が事業戦略を立てるうえで参考になる事例として、アプリやECなどのオンラインとオフライン店舗をシームレスに結ぶことで、顧客がどこからでも商品探しや購入ができ、各自に合った商品の受け取り方法が選べる、セフォラやウルタなど米国の大手化粧品小売りチェーンのオムニチャネル施策を紹介。
あわせて日本では、大手ドラッグストアのスギ薬局が進める顧客IDの統合とデジタル健康台帳の実現や「スギスマホオーダー」システムを挙げ、これらが、顧客の利便性や体験の向上のみならず、店舗のバックヤードの負担を減らして接客に注力するゆとりを生み出し従業員体験の向上にもつながっていることを例示しました。
また、美容部員がリモートで実施するオンラインカウンセリングや接客を設計してきた立場から、同じ商品であっても「この人の説明を聞いて、この人から買いたい」という「人」を基軸にした購買体験「ソーシャルセリング」にも福岡は言及し、販売する人=「ソーシャルセラー」は、ブランドのことを深く理解し、周囲の潜在顧客を啓発していくブランドアンバサダー的な販売代理人であるとして、ソーシャルセラーがフリーランス美容部員として活躍していく可能性を述べました。
続いて「人と店舗で価値向上、ブランド・小売の現場から」と題した第2部は、株式会社アイスタイル BeautyTech.jp編集長 矢野貴久子をモデレーターに、株式会社アイスタイル 販売促進ユニット 副ユニット長であり、株式会社アイスタイルリテール 取締役 坂井亮介と、株式会社ポーラ ブランドマーケティング部 部長 中村俊之氏がパネリストとして登壇しました。
株式会社アイスタイルリテール 取締役 坂井亮介
公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構 代表幹事
中村俊之氏
東京・原宿にある旗艦店@cosme TOKYOを中心とした、アイスタイルグループの実店舗という小売の現場で行われつつある新しい試みを紹介するにあたり、坂井はまず、なぜ化粧品業界ではEC化が遅いのか、その背景を説明。流通の仕組みとバリューチェーンが非常に複雑化していること、そしてもうひとつは、買う前に試したいと思うユーザーが90%にのぼるなど、化粧品は「五感で感じて購入する商材」だからだとします。
加えて、毎月@cosmeには、新しく登録されるブランド数が約100、新規商品登録としては約1,500SKUあると明かし、それだけ膨大な数の商品が市場には出回っており、消費者は「どこで何を買っていいかわからない」状態にあるといいます。その結果、カウンセリングによる商品理解が効果的に購入を促進する方法となっており、また、こうした続々と登場する新商品に対応する面でのECの顧客体験設計がまだ不十分な部分もあり、このような事情が重なって、EC化率約10%以下、対面販売が主流である現在の状況を生んでいると坂井は指摘します。そして、アイスタイルが考える打開策として、店舗と人を中心にした「co-store戦略」を紹介しました。
co-store戦略はリアルの小売店舗を単にモノを売り買いする場所ではなく、「ユーザーとブランドがどう出会うのか」という観点から、コワーキングスペースのようにスペースの編集やファシリテートにも注力し、出店ブランドと協力して店舗で「出会いと体験のインタラクション」を作り出すことを目指したものです。その出会いの先としては、そのまま店舗で購入するほか、その場でブランドの公式ECから購入することも可能としています。
そして、このco-store戦略で重要な役割を果たすのが美容人財(販売職スタッフ・美容部員)であり、ブランドをまたがる幅広い商品知識をもとに、多くのブランドや商品とユーザーの出会いを生み、商品を適切に試すサポートをして、顧客一人ひとりのニーズにあったアドバイスをすることを期待しています。坂井は、@cosme STORE(実店舗)では、接客体験の可視化・CRM(顧客関係管理)活用を目的とした「共通台帳システム」を導入して、「ヒト×データ & 従業員そのものの価値の最大化」をさらに進めていくことで、店舗に新たな価値を付加していくと意気込みを語りました。
一方、ポーラの中村氏は「DXを推進するにあたり、まずはポーラ創業の原点に立ち返って考えることをした」といいます。化学者でもあった創業者が手の荒れた妻のために、乳鉢でハンドクリームをつくりあげたことがポーラの始まりであるというエピソードに触れ、デジタルが当たり前の世界でも、組織やチャネルの枠を超え、大切な人=顧客一人ひとりへの想いがこもった「おもてなし」を一貫して届けるためのDXを志向したと説明しました。
ポーラには、化粧品の販売、カウンセリング、エステサービスを提供する全国約3,200のポーラショップ、百貨店のポーラコーナー、オンラインストア、そして、ホテルのアメニティなどを取り扱うBtoB事業の4つの柱があります。しかし、それらをいずれも顧客接点の場というひとつの世界としてポーラでは捉えていると中村氏は話します。つまり、あるユーザーが、新規接点から商品検討、新規購入、リピート、そしてロイヤル顧客となるまでのカスタマージャーニー全般を、オン/オフラインをまたいで相互に拡張したコミュニケーションによって顧客に寄り添い、高い顧客体験を創出することでビジネスを次のレベルに持っていくというのです。
これまでの具体的な施策としては、ECサイトをデジタルコミュニケーションのハブと捉えて、オンラインショッピングだけでなくウェブルーミングに寄与できるように、店の情報やイベントを発信するなど、店舗とECが顧客を取り合うことのないアプローチをはじめ、オンラインツールを用いた新たな接客、オンラインストアの利用客に手書きメッセージを同梱して発送するなど「人肌感」のある個別対応を実践していると中村氏は説明。また、販売スタッフが季節美容や教育コンテンツなどの必要な情報にいつでもアクセスするためのスマートフォンアプリなども開発したといいます。
同時に、顧客体験の各段階で適切なアプローチがなされているか、効果が上がっているかなど、プロセスを丁寧に検証し数値化して評価するために、顧客の声を吸い上げつつ、改善していく仕組みづくりも進めていると話しました。
そのほかにもダイエット&ビューティーフェア2022の会場では、地域発の美容商材に光を当てる「ジャパンメイド・ビューティ アワード」の第8回授賞式が行われ、最優秀賞の株式会社ガブの「ラ・グレース クレイシリカクレンジング生肌」をはじめ、6件が表彰されたほか、特別審査員を務めたアイスタイル 取締役 山田メユミがコーディネーターとなり、ビオセボン・ジャポン株式会社 マーケティング部 部長 枝川和佳子氏と株式会社日本百貨店 商品企画部バイヤー 安齋礼恵氏をゲストに迎えた記念トークイベントなどが開かれました。
また「@cosme for BUSINESS」も初めてイベントにおけるブース出展を行い、月単位で@cosme店舗への出店ができる「co-storeサービス第1弾、サブスクリプション型出店サービス」や、サンプリングサービスの「サンプルガチャ」など、@cosmeが提供する企業向けサービスを紹介しました。
ブースでは、@cosmeTOKYO館内アテンドツアー動画や
ライブコマース「教えて美容部員さん」のアーカイブ動画を放映
「co-storeサービス第1弾、サブスクリプション型出店サービス」は、先述のビューティテックシンポジウムでも語られた「co-store戦略」の一環として登場したもので、ビューティ企業やブランドが、販売したい商品の目的や用途に応じて、希望する@cosmeの店舗や“最短1カ月”からの期間を選ぶことができる、出店型展示/販売サービスです。ブースでは実際に、同サービスを利用して@cosmeTOKYOで展開している東京・渋谷発のコスメブランド「ENBAN TOKYO」のディスプレイを再現し、多くの来場者からの注目を集めました。
>>co-storeサービス第1弾、サブスクリプション型出店サービスの詳細はこちら
また「サンプルガチャ」は、現在、@cosme TOKYOと@cosme STORE ルミネ横浜店に設置しているサービスで、ブランド単位で最短1週間から利用可能です。来店のお客様が「@cosme」アプリで会員バーコードをかざすと1日1回限定で無料でガチャを回せる仕様としています。ゲーム・遊び感覚を加味することで、対面接客でのサンプリングと比較し、利用ハードルの低い非接触によるサンプル体験を提供します。今回は、参考品としてブースに設置し、@cosme for BUSINESSのメールマガジンへの登録、または名刺交換をしたブース来場者の方が1回お試しできるアトラクションとしました。
>>「サンプルガチャ」サービスの詳細はこちら
>>その他サンプリングサービスの詳細はこちら
「メディア・クチコミサイト」としての印象が強い@cosmeですが、今回「@cosmeでサンプリングをしたり、@cosmeの店舗へ出店が可能」というサービス内容を説明したことで、「@cosmeの店舗へ、月単位で出店できるのは魅力的」「新商品や注力時期に出店やサンプリングを実施してみたい」「今後、化粧品ビジネスを始める計画で、最初の認知獲得施策として利用したい」などのポジティブなフィードバックを得ることができました。
Top image:インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社