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店頭での対面接客の価値が向上していく時代。そのためにデジタルはどう役立つか?【第6回ビューティテックシンポジウムレポート】

作成者: @cosme for BUSINESS編集部|Oct 20, 2023 9:10:00 AM

美容分野のビジネス展示会「ダイエット&ビューティーフェア2023」において開催の「第6回ビューティテックシンポジウム」では、アイスタイル 代表取締役社長 COO 遠藤宗が店頭やオンライン上でのバーチャルメイク体験などを可能にするSaaS型プラットフォーム提供のパーフェクト 代表取締役社長 磯崎順信氏と、「リアル体験こそが差別化戦略、そのためのデジタルとは」をテーマにディスカッションを行いました。ダイジェストでレポートします。

オンラインでのコミュニケーションの可能性が広がる一方、店頭での対面接客の価値が高まっている

美容・健康関連ビジネスの総合展示会 ダイエット&ビューティーフェア2023インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社主催、2023925日〜27日東京ビッグサイトにて開催)では、美容業界のイノベーションを紹介するアイスタイルのWebメディア「BeautyTech.jp」が、今年も「第6回ビューティテックシンポジウム」を共催しました。

第一部では、アイスタイル プロデューサーの宮島沙織が、コロナ禍を経て、美容分野ではブランドや小売と消費者とのコミュニケーションがSNSでの会話やライブコマースなどで、より簡単かつ幅広くなり、可能性が大きく広がったことをBeautyTech.jpの記事から解説。そのうえで、「実際に生身の人間同士が対面する小売店店頭での接客が、特別感のある、より信頼性が高くパーソナルな体験として価値が高まってい」と指摘しました。

 株式会社アイスタイル プロデューサー 宮島沙織

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スタッフの接客をサポートし、ユーザー体験を向上させる、パーフェクトのAI肌解析ソリューション「Skincare PRO

第二部では、小売店での「リアル体験」をいかにデジタルでよりよいものにしていくか、パーフェクト株式会社 代表取締役社長 磯崎順信氏と、株式会社アイスタイル 代表取締役社長 COO 遠藤宗が、両社で展開するサービスを紹介するとともに、ディスカッションを行いました。

2015年に創業し、台湾に本社を置くグローバル企業パーフェクトは、58,000万ダウンロードの旗艦アプリ「YouCamメイク」はじめ、全4アプリ合算で10億ダウンロードを突破(20239月現在)している、バーチャルトライオンや肌診断などAR/AI技術のリーディングカンパニーです。企業向けにはバーチャルメイクやメガネやアクセサリーなどのバーチャル試着、AI診断機能など、SaaS型プラットフォームを提供し、世界600以上のブランドが導入しています。

同社の日本法人 パーフェクト株式会社の磯崎氏は、「バーチャルトライなどのARは本物と見分けつかないくらいの再現性を目指して、自社AIのアップデートに努めてきた」とし、また同時に「我々の技術はあくまで消費者とブランドをつなぐ接点となるツールであり、デジタルを使ってリアルをいかに活性化できるかという観点に立ってサービス設計をしている」といいます。 

そのなかで先日リリースしたのが、磯崎氏が「必要な機能を厳選して装備し、タブレットひとつで、誰にでも使いやすい簡単な操作性で店舗スタッフの接客をサポート、ユーザーのサロン体験を向上させる」と説明するAI肌解析ソリューション「Skincare PRO」です。

Skincare PROは、エステサロンや皮膚科クリニックでの利用を主に想定していて、カメラからの画像をもとに、しみ、シワ、キメ、うるおい、テカリなど14項目でAIがユーザーの肌状態を即座に解析、結果をスコアとUIで表示します。また、肌悩み別の改善シミュレーションも搭載されています。

Skincare PRO操作の流れ
画像提供:パーフェクト株式会社

Skincare PROを採用したサロンからはすでにさまざまなフィードバックがあり、おおむね好評で、「肌診断をすることでカウンセリングの説得力が高まった」「具体的な数値が出るので、よりパーソナライズした適切な施術や商品提案、アドバイスがスムーズにできる」「肌状態の見える化で、ケアの効果など変化を追うこともでき、お客様のサロンケアの意識が向上し、来店頻度がアップした」などの声が寄せられているそうです。接客ツールとして来店客とのコミュニケーションを深めることに貢献し、ビジネスに良い影響を与えていることがうかがえます。

AI開発にかかるコストの面もあり、我々の企業向けサービスは従来、規模感のある大手企業に主に導入いただいてきた。そのなかで培った高度な技術を中小のサロンの接客の現場で、手の届きやすい価格帯で手軽に活用していただくことを目指して設計したのが、Skincare PROだ」と磯崎氏は明かします。

「共通カウンセリング台帳」や、中小規模のブランドでも@cosme TOKYOに手軽に出店できる「co-storeサービス」を展開するアイスタイル

一方、「アイスタイルでは約25年前、美容ポータル@cosmeを立ち上げた初期の頃から生活者中心の市場創造をビジョンに掲げ、ネットとリアルを融合したビューティに関わるヒト・コト・モノのデータを軸にしたビジネスを展開している」と話すのは、アイスタイル 代表取締役社長 COO 遠藤です。

アイスタイルでは、行動データや商品データなど、生活者とブランド双方から得られるデータをクチコミ、EC、リアル店舗で構成するデータベース上に集約することで、生活者とブランドをつなぐ役割を果たすと同時に、オンラインとオフライン両方において、単に買うだけではなく、出会う・試すという体験の提供に重きをおいています。

なかでも、リアルとネット世界の融合を体現しているのが、@cosme旗艦店@cosme TOKYOと、202391日にオープンした関西旗艦店@cosme OSAKAです。ユーザーIDを統合し「メディア/EC/店舗」の3者間連携モデルを構築して、たとえば、多くのユーザーがネット(クチコミやEC)でチェックしている商品を、来店してリアルで触れることができるよう用意するほか、検索数や売れ筋ランキングなどのインターネット上の情報を店舗の品揃えや棚づくりなどに反映しています。 

また、アイスタイルではブランドが@cosme TOKYOに月額固定制で出店でき、生活者と直接の接点が持てる「co-storeサービス」も展開しています。「co-store戦略は、さまざまなブランドに参加いただき、顧客インサイトデータを得るとともに、一緒に店舗を作ってもらおうという発想から生まれた」と遠藤。中小規模のブランドでも手軽に実店舗を開設でき、リアルな顧客体験の提供を可能にするものです。

co-storeサービス

同時に、遠藤は「(アイスタイルの)実店舗ではデジタルをふんだんに盛り込んでいる。でも、ヒトの接客こそがすごく重要だとも考えている」と話します。たとえば、化粧品専門店としては国内ナンバー1の敷地面積を持つ@cosme TOKYOでは、ラグジュアリーからプチプラまで600ブランド以上を取り扱い、接客スタッフはブランドの垣根を超えた膨大な商品知識にもとづきつつ、一人ひとりの顧客に応じた応対を行なっています。

そこでは、オン/オフラインを横断した顧客データの管理をすることでお客様がどこで何を買ったかを理解するとともに、ブランドや店舗ごとに分断されていた顧客台帳を1つに統合してカウンセリング内容を共有し、デジタルで見られるようにした「共通カウンセリング台帳を活用し、店舗での接客やシームレスな顧客体験をデジタルでサポートしています。

デジタルを使ってリアルの体験をいかにより良いものにしていくのか

デジタルを使ってリアルの体験をいかにより良いものにしていくのか。ディスカッションタイムでは、磯崎氏と遠藤はそれぞれの立場から意見を交換しました。

「コロナ禍でECの利用率が増加したとはいえ、日本では消費者が実際に商品を購入する場所はまだ8割以上がリアルである」とする磯崎氏は、その意味で、バーチャルメイクに代表されるパーフェクトのサービスは、ある商品を店舗まで出向いて買おうとする意思を後押しする役割も大きいと考えているといいます。

「デジタルでの体験は、いわば、消費者の頭のなかのお買い物リストに入れる商品を見つけることに役立てられている。『バーチャルで試したら良かったので、店舗に行って現物を確認して買おう』と思い行動している人は多いと考えている」(磯崎氏)

 パーフェクト株式会社 代表取締役社長 磯崎順信氏

同じ文脈で、リアル店舗で販売スタッフのサポートに使用されるデジタル機器も、顧客の決断の最後の一押しとして有用だと磯崎氏はみています。「たとえばエステサロンで商品をおすすめする際に、その場でできる肌分析のデータがあれば、コミュニケーションがしやすいし、なぜその商品が自分にふさわしいのか、顧客も納得できるだろう。多店舗展開する企業であれば、担当者や店舗によって言うことが違うということがなくなり、根拠の確かなカウンセリングとして質が担保できる。また、エステティシャンのスキルアップにもなる」(磯崎氏)

遠藤も実店舗の重要性を強く認識しています。毎月約1,500の新商品が登場し、しかも、試さないと買うことを不安に思う人が多数いる化粧品という商材の特性上、化粧品ビジネスではリアルの世界での出会いと体験が欠かせないと考えているからです。そして、@cosmeの実店舗は「(商品に)出会って、触って、試してもらい、『ここに来て良かった。楽しかった』と思ってもらうことで、@cosmeのファンを増やすのが一番の目的。何なら買うのはオンラインでも他の店でもいい」と話します。

株式会社アイスタイル 代表取締役社長 COO 遠藤宗

「私たちの店舗は、売上や客単価をKPIにしていない。みているのはお客様の買上げ点数だ。売上はそのときどきのトレンドが、プチプラか高級ブランドかなどに左右されるが、お客様がいろいろと手に取った結果、あれもこれも欲しいと思ってカゴに入れてくださるというのは、店舗にセレンディピティ(予想外の素敵な発見)的価値を見出してくれたということ。前述したように、接客やフィジカルな体験を含め、魅力的と感じてもらえる店舗づくりにデジタルを活用している」と遠藤は強調します。

一例としては、@cosme OSAKAに設置している、@cosmeのアプリをかざすと111回好きなサンプルを無料プレゼントする自販機型のコスメサンプルスタンドは、列が絶えないほど人気の体験となっています。来店されたお客様は欲しいサンプルが手に入り、アイスタイルではアプリを介して顧客の行動データを取得することでマーケティングに活用ができるというメリットもあります。

@cosme OSAKAの「コスメサンプルスタンド」
コスメサンプルスタンドを含む@cosme OSAKAを紹介したレポートはこちら

磯崎氏もまた「私たちが提供するデジタルサービスの役割は、ECに即座に誘導することだけではもはやない。マーケティング用語でジーモット(ZMOT 店頭にいく前から商品、サービス、ブランドと消費者との交流がネット上で発生している購買行動を決める瞬間=ゼロモーメントオブトゥルース)と呼ばれる、オンラインで見つけた商品や情報を『これいいね!』と思ってもらえるポイントを増やすことに、一番の目的がある」といいます。

そのために、より現実に近いバーチャル体験、あるいは現実ではあり得ないデジタルならではの表現で、ユーザーが「面白い」と感じる瞬間を創造していくのが、パーフェクトの技術だと強調します。

磯崎氏、遠藤ともに、新たな発見という顧客エンゲージメントを生み出すデジタル施策によって、リアルの体験につなげていくという発想です。加えて2人は、デジタルで期待値が高まったユーザーをリアルにおいても満足させうる体験をつくることをセットで考えていく必要性を説きます。

「デジタルを使うのは、結局ヒトだ。(リアルな顧客体験の向上のために)デジタルの知識やコミュニケーション能力など、現場で働くヒトのスキルをあげていくことが大切だと思う。デジタルによって体験価値を高める能力を身につけることで、働くヒトのこの先の可能性を広げていくことにもなるのではないか」(遠藤)

次回ダイエット&ビューティーフェアは、
2024年9月30日~10月2日 東京ビッグサイト 西ホールで開催予定

Text: そごうあやこ 
Top image & photo: インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社