2024年5月8日開催のウェビナー「スキンケアの情報収集実態にみるコミュニケーションのヒント」では、株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント 水野夏菜氏と株式会社アイスタイル @cosmeリサーチプランナー 原田彩子が「最近、商品にどんな美容成分が含まれているのか意識をし、商品検討時の重視点としている生活者が増えているのではないか?」という仮説ををもとに両社のデータを分析した結果を紹介し、生活者とのコミュニケーションのヒントを語りました。
国内最大規模の250万人のインターネット行動ログデータを保有し、同データの分析事業を展開するヴァリューズ。今回のウェビナーでは、化粧品の美容成分重視のトレンドに関して、同社の分析からわかったことを、@cosmeの2,000万件を超えるクチコミの分析からわかったことと共に紹介しました。
冒頭でヴァリューズ水野氏は2023年11月に実施した、スキンケア市場に関するアンケート調査の結果を紹介。直近1年間にスキンケア商品を購入した人に商品に対する重視点を確認したところ、「興味を持って情報収集をするとき」「商品の購入を検討するとき」「商品の購入を決めるとき」のそれぞれの場面で「美容成分」を重視している人が3割前後の高い割合で存在することがわかりました。
また、@cosmeのプロデュースメンバーを対象にした2023年11月にアンケートでは「ここ半年で成分やスキンケア効果を意識してメイクアップ化粧品を選ぶことが増えた」と約半数が回答。これは半年前の調査から7ポイントの増加です。
「オイデルミン」と同じ美容成分が配合されており、さらに美容液がファンデーションを包み込む新処方であるSHISEIDO「エッセンススキングロウファンデーション」や、CICAやレチノールといったスキンケア成分が配合されたファンデーションであるMISSHA「ミシャ M スキンフェイクバーム」など、美容成分を配合したメイクアップ製品も増えています。そして、それらのクチコミでは、「買わない理由が見つからない」「下地なしで直接肌にファンデをのせるのは抵抗があったが、むしろ積極的に使いたい」といった美容成分が入っていることに対しての好意的なクチコミがみられたといいます。
「美容成分入りのファンデーションは、下地なしで直接肌にファンデーションをのせる手抜き感や罪悪感を消してくれるし、美容に対する関心がライトな層も商品を手に取りやすい環境がどんどん出来上がってきている」と原田は解説します。
原田は「メイクだけではなく、ボディーケアやヘアケアなどのカテゴリーでも成分を意識して購入するといった声が聞かれだした」と続けます。
例えば、トラネキサム酸配合のボディケアであるファンケルの「ボディミルク ブライトニング&エイジングケア」は、「ボディケアでトラネキサム酸配合なのは珍しいので購入してみた」と言ったクチコミが寄せられています。発売から8年経っているにも関わらず、同アイテムは@cosmeベストコスメアワード2023 ベストボディケアに初めてランクインしました。また、ヘアケアでもタンパク質配合のアイテムが人気になる傾向が見られています。
それでは化粧品全体的にはどんな成分に関心がもたれているのでしょうか。前出のヴァリューズのアンケートでは、関心のある成分の1位はコラーゲン、2位ヒアルロン酸、3位ビタミンC誘導体でした。また、CICAが5位にランクインしました。
「CICAは2021年に流行った後、定番化しつつあり、依然として高い関心が寄せられている印象だ。アゼライン酸などと共に特に20代の関心が高い傾向にある。一方、アスタキサンチンやプラセンタは40代以降で関心が高い。年代によって関心のある成分に違いが見られる」(水野氏)といいます。
2023年度に投稿された@cosmeのクチコミ中で使われている成分名の出現率を調べたところ、1位はレチノールでした。レチノールの出現率は5年前と比較して12.6倍と増加しており、前年度まで1位だったビタミンCを逆転しました。
次に2023年度で増加率の高い成分を見るとグルタチオン、アゼライン酸などのほか、パンテノールも見られました。パンテノールはヘアケアのイメージが強い成分ですが、スキンケアのクチコミの中で保湿効果を期待するワードとして最近見られるようになっているのです。
このうち、ヴァリューズの調査でもアゼライン酸というワードの伸び率は高く、また「アゼライン酸 併用」といった検索も高頻度で見られました。この状況を原田は「たとえばレチノールなど他の成分とアゼライン酸を組み合わせて使っていいのかなど、併用というワードは今使っているアイテムにどんな成分は入っているかを理解していないとされない検索だろう。成分へのリテラシーが高まり、成分を重視する層の存在がアゼライン酸から見て取れる」と解説します。
それでは「成分を重視する層」とはどんなユーザーなのでしょうか。
「美容成分を効果効能の根拠と捉え、購入時にも美容成分を重視するのは、その成分と早期に接点を持っている層=イノベーター理論におけるアーリーアダプターに近いユーザー像がうかびあがる」と水野氏は指摘します。
ヴァリューズの調べによると、レチノールが流行り始める前の2019年以前にレチノールを認知した層と、2023年に認知した層で、商品購入時の重視点を比較すると、早期に知った層は美容成分がもたらす効果を特に重視している一方で、最近知った層はコスパを特に重視している傾向が確認できたというのです。
ヴァリューズでは、全体のうちレチノールの初回検索タイミングが早かった上位16%をアーリーアダプター、その他をマジョリティと定義して、初めの「レチノール」というワードの検索の前後に、どんなサイトを見ていたのか、またそれぞれの普段の行動特徴を直近1カ月のインターネット行動ログ分析で調査して、両者を比較しました。
まず、アーリーアダプターはレチノールにたどり着くまでに、どんなサイトを閲覧していたのでしょうか。
マジョリティはYouTubeやXなどSNSでの情報収集傾向が強い一方で、アーリーアダプターは、スキンケア、メイク、肌悩み、美容医療などについての記事が公開されているサイトや、美容・健康アイテムを実際に試し評価しているサイト、また化粧品成分のデータベースサイトなど、専門的な美容情報を扱うサイトの閲覧を多く行っていました。
水野氏は「ビジネスパーソンが毎朝日経新聞を読むように、美容関連情報を収集する習慣が当たり前になっているのではないか」と例えます。
検索キーワードで見ると、アーリーアダプターは「しわ」「目元のシワをなくす方法」など、肌悩みを検索する中で、レチノールのことを書いているサイトに行き当たり、さらに詳しく知ろうとレチノールというワードで検索を行っている様子が確認できました。
一方マジョリティは「おそらくレチノールという名称はどこかですでに知っており」(水野氏)、そのうえで効果や、おすすめの商品、その商品のクチコミ、使い方など具体的な商品情報をSNSから得ようとしている行動が見られました。
「レチノールというワードで検索している人がマジョリティは5割に対して、アーリーアダプターでは3割。つまりアーリーアダプターは、マジョリティよりも自分の肌悩みを起点に幅広く情報収集しようと多様なワードで検索している。つまりアーリーアダプターの人に成分名を認知してもらうためには(早期にアーリーアダプターと接点を持つことを目的としたコミュニケーションをするなら)、サイトにいろいろな肌悩みに関するワードを散りばめておくことがひとつ鍵になるかもしれない」と原田は提案します。
また@cosme のレチノール関連のクチコミで特徴的なキーワードを時系列で探ると、2019〜2021年の比較的初期には「しわ」「ほうれい線」「エイジング」といったエイジング系のワードが多くみられたのに対して、2022〜2023年には「毛穴」「にきび」といった若い世代からのクチコミと思われるものが増え、同じレチノールでも捉えられ方が変化している様子が伺えました。そして、「A反応」「肌荒れする」といったリスクについても特徴的にクチコミ内で語られるようになっていました。
これを「早期からレチノールを知っている人と、そうでない人で、事前の情報収集の量の違いが影響しているのかもしれない」と原田は指摘。つまり、さまざまな美容情報にあたり、早期からレチノールを知っている人(つまりアーリーアダプター)は色々調べてわかった上で商品を購入しているのでギャップも起きにくいのですが、新しくエントリーした人たち(つまりマジョリティ)はレチノール入りの商品で肌荒れしたことや、逆にレチノール入りなのに肌荒れしなかった良い商品であるということをクチコミで共有したい気持ちが芽生え始めているのではないか、というのです。
また公式サイトの役割も大きいと原田は続けます。@cosmeのクチコミの中で成分系のワードの増加率は近年高まっていますが、実は効果や値段、使用感に関するワードと比べると、3分の1程度とそう多くはありません。実は生活者は成分に関する情報をクチコミでそれほど多くは発信してはいないのです。
「『そもそも知識が無くてそんなに語れない』ということもあるが、『素人が成分のことを言っているのを鵜呑みにしていいものか』といった疑問から、『使用感や効果感についてはクチコミを参考にするが成分についての情報はクチコミで知りたいとは思わない。メーカー公式のブランドサイトで知りたい』という声がアンケート調査では多くみられた」と原田は紹介。
「クチコミを書く側も読む側に求められていることを書きたいという考えの中で、自分がクチコミで成分のことを知りたいと思わないから、成分についてクチコミに書きたいというモチベーションにも繋がらないのだろう。こうした中で、ブランドが公式な情報として成分について発信することは非常に重要だ」(原田)といいます。
また、レチノールのアーリーアダプターとマジョリティはそれぞれ、レチノールにたどり着いた後にどんな検索をしていたのでしょうか。
アーリーアダプターは、レチノールにたどり着いた後も、「ほかにいい成分はないのか」とレチノールを検索する前と同様に専門的な美容情報サイトで情報収集している様子が確認できました。
一方でマジョリティでは、通販サイトや商品を比較・検索ができるクチコミサービスに入って、「商品購入」に向けた具体的な検討行動を進める様子が確認できました。この点を見て、「マジョリティの検索以降はコンバージョンポイントとしてしっかり捕えに行くことが大事そうだ」と水野氏は提案します。
つまり、マジョリティの人々に刺さる情報をこうしたサイトに用意することが大事だというのです。
これに対して原田は @cosmeでのイニスフリーの事例を紹介。@cosme内の公式ブログでイニスフリーは、約2年前に発売された商品に関して、2年経った今でも、レチノールとシカの基本的な成分の説明を行なっています。「『人気商品だし、レチノールが何に効くのかすでに皆わかっているだろう』と考えるのではなく、基本的な情報を丁寧に伝え続けることで人気を保っている」(原田)。
また「ブランドからは、商品発売から時間が経過すると、何を伝えていけばいいのか、基本的な情報は多分もうすでに知っているから、今更伝える必要ないんじゃないか、というお声をよく聞く。そしてまだどこにも出ていない、よりコアな情報を発信し続けてしまい、その情報にマジョリティ層がついていけないとしたら非常にもったいない。「同じ情報でも、いまさら?と思う情報でも、そう感じるのは自分たちだけかもしれないと、発信する勇気をもつことが大事」(原田)といいます。
水野氏も同意し、アーリーアダプターとマジョリティ、どの層に何を伝えたいのか、綿密にそれらの人々の挙動を調べ、計画することが、効果的な施策につながるとします。
ウェビナーでは、他にもヴァリューズのインターネット行動ログデータを用いて行った、美容アーリーアダプターのカスタマージャーニー分析などをご紹介しました。他にもヴァリューズでは、実際にブランドの商品を検索している人をパネルから抽出して行動を調査したりコンサルティングを行うことなどが可能です。
また、生活者にブランドの公式情報を伝えていく手段としてアイスタイルでは@cosmeの公式ブログでの発信機能などが利用できる「ブランドオフィシャル」を提供しています。@cosmeユーザーの商品情報の閲覧や@cosmeのECや実店舗での購入データを集約して閲覧でき、そこからヒントを得ながら、生活者に対して適切なタイミングで適切な公式の情報を発信することができます。