パンデミックに伴いリアル店舗やイベントでのサンプル配布が難しいなか、新しい商品との出会いと体験を創出する手法として、メディアやプラットフォームでの商品サンプリング(試供品提供)が改めて注目されています。データにもとづき適切な消費者へ向けた提供や、コンテンツと商品体験を組み合わせるなど新しい手法を紹介します。
英国版マリ・クレール誌は2020年8月、スキンケア、ヘアケア、メイクアップ、香水などの商品サンプルを無料で届けるオンラインの会員制サービス「Beauty Drawer」を開始しました。
Beauty Drawerは、商品を購入する前に新商品をいち早く試してみたい、試した商品の感想を不特定多数と共有したいという人を主なターゲットとしています。数あるサンプリングサービスのなかでも、会員にとってはサービス登録からサンプルお試しまですべて無料であることと、美容に詳しいマリ・クレール編集者が選んだ商品のなかから、自分のニーズや好みに合った商品の提案を受けられる「パーソナライズされたサービス」であることが特徴です。
Beauty Drawerの陣頭指揮を執るEコマース・ディレクター(E-Commerce Director)のエミリー・ファーガソン(Emily Ferguson)氏は、「ブランドにとって、自社商品を適切なオーディエンス(消費者)に試してもらうことは非常に難しい。たとえばサンプルを3,000人に配布しても、実際にその商品にあった年齢や肌タイプの人はその半分かもしれない」と指摘。
20代女性が50代女性向けのスキンケア商品を試しても効果が実感できない可能性や、オイリー肌の人がドライ肌用の化粧品を使った場合、肌状態が改善するどころか悪化する可能性もあることから、こうした問題を避けるため、Beauty Drawerではサービス登録時に消費者が自己申告する年齢や肌タイプ、ライフスタイルなどを解析し、商品のターゲットに合致する会員を選んでサンプルを提供しているとします。
Beauty Drawerのサービスを受けたい人は、登録時に「肌」「髪の毛」「メイクアップ」「香水」「ライフスタイル」の5分野について、自己評価した状態や気になること、悩み、好み、好きなブランドなどについて選択形式の簡単な質問に答えることで「プロフィール」が作成されます。サステナビリティ、クルエルティフリー、グルテンフリーなど、商品選びにあたり重視することや、休日の過ごし方などについても回答します。
ブランドからサンプル提供の申し出があれば、Beauty Drawer側でその商品がターゲットとする消費者の条件にもとづいて会員を絞り込み、商品案内を電子メールで通知。条件とは、たとえば「40代~50代」「ドライスキン」「サステナビリティを重視」などで、案内を受け取った会員は、試したい商品を「注文」する仕組みです。
サンプルを試した会員は、自分の専用ページに商品を使ってみた感想などフィードバックを記録することが推奨されます。複数選択肢の質問に答えてもらう形式が主ですが、ブランドが目的に応じて質問をカスタマイズしたり、感想を自由に書き込んでもらうことも可能です。ファーガソン氏によると、商品を試した会員のほとんどがアンケートに回答するそうです。
ブランドにとってBeauty Drawerに商品を提供する利点は、ターゲット層を選んで商品を届けられること、そして会員の評価を販促活動に利用できるところにあります。Beauty Drawer側で会員の回答を解析し、「商品を試した読者の9割がこの商品に5つ星評価を与えた」「8割が実際に商品を購入すると回答した」などのフィードバックをブランドと共有。商品を実際に体験した会員の意見は潜在顧客にとって説得力があることもポイントです。
ファーガソン氏は、英国マリ・クレール誌にとってBeauty Drawerのサンプリングビジネスは収益源の多様化につながると評価しています。
日本最大のコスメと美容のクチコミプラットフォーム「@cosme」を運営するアイスタイルでは、2020年12月より、@cosme編集部やブランドが作成するコンテンツに商品体験をセットにしたソリューション「@cosme体験型コンテンツ」の提供を開始しています。
これは、サンプリングや現品プレゼントといった商品使用を軸にしたユーザーの体験設計が、これからますます重要になってくるとの考えのもと、従来の「編集タイアップ」を進化させたかたちです。
ソリューションを設計した株式会社アイスタイル Vice President兼ブランド事業本部マーケティングサービス部部長(2020年12月)の那須健朗は、「商品を体験したいとアクションを起こした応募者に、商品を気に入ってもらい、納得したうえで使いたい、買いたいと思ってもらうことをまず考えた」と発案の意図を説明します。
@cosme体験型コンテンツでは、商品体験から導き出されたアクション、たとえばクチコミをする、ECや店頭で商品を購入するといった行動をKPIとして重視。アイスタイルは月間約1,300万人が利用する@cosme、ECサイトの「@cosme SHOPPING」、国内外で約30店舗を展開する実店舗「@cosme STORE」、原宿にある旗艦店「@cosme TOKYO」の利用者を共通IDで管理しており、商品体験後の消費者の行動を把握することが可能です。
2021年2月にはフリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリと商品データの連携で提携し、ユーザーがサンプル代わりに購入することの多い二次流通市場における化粧品とユーザー行動を追跡する体制も整えました。
ブランドと消費者の出会いを導くための商品体験もあれば、「ブランドが自社ファンのロイヤルティを高めるための商品体験も、パイを広げていくための商品体験もある」として、こうしたさまざまな目的に対応する体験機会の創出は「プラットフォーマーでもある@cosmeにしかできないことであり、ユーザーの行動データが寄与すると思っている」と那須は今後の展開に期待を寄せています。
実際に@cosme体験型コンテンツを活用したブランドとしては、日本のフィトテラピー(植物療法)の第一人者である森田敦子氏が立ち上げたトータルライフケアブランド「Waphyto(ワフィト)」があります。2021年6月に現品プレゼントを実施したところ、閲覧数やプレゼントの応募率が想定の倍以上の良い反応が得られたとして、主力アイテムのデリケートゾーンケア商品の認知度を高め、質の高いクチコミを蓄積していくために、この先も@cosme体験型コンテンツの利用を考えているとしています。
2020年末、「DEWキャビアドットブースター」という導入美容液の発売をきっかけに、テクスチャーや香りなどを楽しみ、スキンケアに夢中になることを意味する「skincareholic」という新たなコンセプトを提案する「DEW」では、導入美容液の発売直前の11月に編集タイアップに加えて、会員制有料サンプリングサービス「BLOOMBOX」を実施し、@cosmeユーザーに向けて新商品の体験機会を豊富に提供しました。
BLOOMBOXはサンプルサイズのビューティプロダクツを毎月お届けする月額会員制サブスクリプションサービスです。参加ブランドは商品を試用した会員に対し、10問まで自由に設問が作成できるアンケートが実施できます。有料会員だからこそサンプルのお試しに積極的で、フィードバックの回答にも協力的、かつ会員一人ひとりのニーズを記録したビューティプロフィールにもとづき、商品と会員をマッチングしてお届けするため、より潜在顧客に近い生活者とつながり、マーケティングに活用できるカスタマーインサイトを得ることが可能です。
アイスタイルではこのように多種類のサンプリングサービスを用意しています。