2025年2月4日開催のウェビナー「melt誕生からこれまでの軌跡とブランド成長のヒント」では、花王株式会社グローバルコンシューマーケア部門 ヘルスビューティケア事業部部門 ヘアケア事業部 篠原健吾氏と株式会社アイスタイル@cosmeリサーチプランナー 原田彩子が登壇。最近のヘアケア市場の変化とともに、@cosmeベストコスメアワード2024を受賞した注目のヘアケアブランド「melt」のブランド設計やマーケティング戦略をひも解き、ブランド・商品の情報発信のポイントを探りました。
ヘアケアカテゴリーは生活者にとってお金をかけたいカテゴリーに
冒頭で原田は@cosmeベストコスメアワード2024を振り返り「総合上位10商品には高価格帯のベースメイク商品が多かった一方、スキンケアでランクインした商品はミドルプライスもしくはプチプラでカテゴリーによって金額に差があった。生活者は物価高のなかで何にお金をかけるべきなのか選択を行っている」と紹介。
原田はまたヘアケアカテゴリーの一般販路品の価格の上昇にも言及。@cosmeのクチコミ件数上位10位のヘアケア商品を2024年度と10年前の2014年度で比較すると、ドラッグストア・バラエティショップで購入可能な商品は、2014年度はほとんどが1,000円以下だったのに対し、2024年度は1,500円前後と価格が上昇していました。「ヘアケアカテゴリーは今、生活者にとってお金をかけたいカテゴリーになっているのではないか」(原田)といいます。
@cosmeのクチコミ件数上位10位のヘアケア商品の2014年度と2024年度の比較
また、@cosmeのクチコミ件数上位10位までのヘアケア商品を続けて見ていくと、@cosmeベストコスメアワード2023 総合大賞を受賞したオルビス「エッセンスインヘアミルク」や、プレディア「ファンゴ ヘッドクレンズ SPA+」など、スキンケアも発売しているブランドが展開するヘアケア商品が、2024年度は4商品も含まれていました。一方2014年度にはそうした商品は1つも見られませんでした。「こうした“ヘアケアのスキンケア化”も高い効果が期待できそうな高価格帯のヘアケア商品の人気を後押ししているだろう」と原田は言います。
「ご自愛」や「ウォータータイプ」などヘアケアのトレンドを反映する花王melt
@cosmeベストコスメアワード2024では、ウォータータイプのヘアケアや、うねり・湿気対策のスタイリングアイテムがランクインしました。オイルのベタつきを避けたいニーズが通年化するなか、meltは“髪の化粧水”という新発想のアウトバストリートメントを展開。さらに、うねり対策需要に応える「スムースシリーズ」も2025年3月に発売を予定(開始)しており、トレンドをとらえたmeltの展開に今後ますます注目が集まりそうです。
melt 商品ラインナップ
2024年春に花王がハイプレミアム(シャンプー本品1,400円以上)参入の第一弾として発売したmeltは、発売直後から大きな反響を呼び、シャンプー・トリートメントのインバスアイテムが好調に推移。詰め替えを手に取るリピートユーザーも増え、さらに広がりを見せています。
@cosmeベストコスメアワード2024においては、ECである@cosme SHOPPINGでの販売実績をもとにした@cosme SHOPPINGベストヒット賞のブランド新人賞を受賞しました。ドラッグストアでの商品展開に実績のある花王のブランドでありながら、後述のオンライン/オフライン両輪の施策が奏功しオンラインでも売り上げが伸びたことが受賞の要因のひとつと言えるでしょう。
meltのクチコミでは泡立ちのよさや香り、トリートメントの質感に「癒される」「素敵」「感動」といった情緒的な評価が寄せられています。「受賞の背景には“風呂キャンセル界隈”にとって面倒なシャンプーをポジティブに変換し、至福の時間に変える存在となったことがある」と原田は指摘。こうした「ご自愛(自分で自分の機嫌をとる)」商品はmelt以外でも人気になっていますが、meltの場合は特に「感情」を軸にヘアケア事業を刷新した花王ならではのマーケティング戦略が鍵になっているのではないかといいます。
「ご自愛」できる商品が人気に
meltに寄せられたクチコミ
感性マーケティングに裏打ちされたmeltのコミュニケーション設計
花王では感性マーケティングの観点で人の感情を論理的に理解し、商品を使ったうえでどんな気持ちになってもらいたいかをブランドごとに設定。例えば、メリットはナチュラル(自然体・リラックス)、エッセンシャルはプレイフル(ポジティブ・リフレッシュ)と設定していて、meltに関してはコンフォート(優しさ・安心感)を意識して構築しています。
「コンフォートの感情になってもらうために、必要な要件やそれにひも付く機能的な部分(どんな成分が必要か)まで理解し、それを起点として一貫した世界観、コンセプトを実現している。具体的には、meltは生活者の“ご自愛”や“セルフケア”の流れを捉えている」と花王株式会社グローバルコンシューマーケア部門 ヘルスビューティケア事業部部門 ヘアケア事業部 篠原健吾氏。コロナ禍で生活者は自分と向き合う時間が増え、自分で自分をコントロールしていくことや、自分なりに自分の機嫌をとることへの意識が、世の中の潮流として高まっていると捉えているといいます。
meltはコンフォートを意識してブランドを構築
その上で、競合も多いハイプレミアム商品として成果を出すために必要な要素は2つあるとします。1つは感性マーケティングによる特定の感情を呼び起こすクリエイティブ、そしてもう1つは感情に働きかけ、記憶に残る商品体験や本質的な髪の変化を可能にする技術です。「どちらが欠けてもだめで、両立が必要」(篠原氏)。
そのため、meltは花王が原料メーカーとしてサロン向けに卸している成分を配合しながら、その良さを引き出す技術にも力を入れています。「炭酸パウダーで生炭酸を発生させるときのシュワシュワという音、洗う時のリッチな泡の感覚、天然の香料による繊細な香りと、複数の感覚を刺激する設計としている」と篠原氏はいいます。
これには原田も「五感に訴えることはクチコミとの相性もいい」と同意します。「たとえばここ半年ほどで『もちもち』『ぱちぱち』といったオノマトペ(擬態語や擬音語)や、片栗粉、湯葉、こしあんといったような誰もがイメージできるものでクチコミが表現されるケースが増えているが、こうしたクチコミによって、自分も同じ体験をしてみたいと購入意欲が高まっていく。またmeltがこだわった成分や香りに対する生活者の注目度は@cosmeのデータで見ても増加傾向にある」(原田)と説明します。
meltの複数の感覚を刺激する設計
香りへの関心が増加し、人工的ではない、複雑でリアルな良い香りが求められるように
meltの開発会議は、マーケティング担当者に加え、研究、パッケージ、コピーライター、営業、代理店などの関係者が部署を横断して集結する「スクラム体制」によりスピーディーに進められました。「一度に集まることで、決めるべきことをその場で決めていける。たまに議論を戦わせることもあるが、メンバーの意思統一をしっかりしていくことができ、一貫したものづくりができる」と篠原氏はいいます。
こうして作られたmeltのコミュニケーション設計は、「多くの競合ブランドがひしめく中で、いかにお客様と絆を結んでいくか」(篠原氏)を念頭に次の3段階となりました。
まずは「休みながら美しく“休息美容”」というブランドコンセプトの世界観を表現しつつ、商品価値を感じてもらえるビジュアルを作成し、拡散。次に、使用感や機能性などの情報を周知するために、インフルエンサーのPR投稿や@cosmeのクチコミが活発に行われるように整備。
そして、流通小売と協力し、小売店の店頭で旬の商品であることが伝わるような売り場づくりです。「1,600円というドラッグストアでは高い価格帯の商品であることで、小売店は美容感度が高いお客様が来店する店舗にまずは的をしぼり、話題化を狙っている」と篠原氏はいいます。
meltのコミュニケーション設計
このうち@cosmeでは2024年4月の発売前後で「体験型コンテンツ」を実施し、話題醸成とともにプレゼント企画により体験者を増やし、早期の評判形成を目指しました。
また同5月には全国19店舗の@cosme STOREのタワーディスプレイ、同9月はECである@cosme SHOPPINGの花王ブランド横断販促キャンペーン「花王ブランドフェスタ」を通して購入機会の最大化を図った結果、同12月には@cosmeベストコスメアワード2024において@cosme SHOPPINGのブランド新人賞を受賞。注目度の高いベスコス発表期間に展開する@cosme TOKYOの同アワード企画棚にも出展し、発売当時からオンオフ両面での訴求を行いました。
「新発売ブランドにとって良いクチコミをどれだけ得られるかは非常に重要だと思う。発売前の体験型コンテンツでは、美容感度の高い@cosmeユーザーに対してプレゼント企画を実施することで、meltを検索した一般の生活者の参考になる良質のクチコミを獲得することができ、重要な一手だった」と篠原氏は振り返ります。