2021年の好評を受け、パワーアップしたセフォラのデジタルビューティイベント「SEPHORiA 2022」が、2022年9月に開催されました。セフォラ初のNFT(非代替性トークン※)のプレゼントやビューティセレブのライブショー、買い物に使えるポイントが貯まるゲームなど、“顧客を楽しませること”に徹底したバーチャル空間体験をレポートします。※唯一無二であることを証明する偽造不可能なデジタルデータ
多様なファンとのつながりを強化
「SEPHORiA: Virtual House of Beauty 2022(以下、セフォリア)」は、「YSL Beauty」「NARS」「Haus Labs by Lady Gaga」「Fenty Beauty」「Too Faced」など、37ブランドが参加し、2022年9月18日10:00〜14:00(米国西海岸時間)の4時間にわたりオンライン開催されました。
セフォリアの参加に特別なアプリのダウンロードは不要で、PCやスマートフォンからブラウザで閲覧できます。いわゆる“ハウスパーティ”コンセプトで、“セフォリアの館”を訪れた入場者は、テーマが異なる7つの“部屋”を自由に歩き回り、音楽やビジュアル、雰囲気もさまざまで、細部まで凝った演出の3D空間を楽しむ趣向としています。
セフォリアはもともと2018年にセフォラの米国進出20周年を記念し、ロサンゼルスの特別会場を借り切ったリアルなファンイベントとしてスタート。しかし、2020年はパンデミックで中止され、2021年は初のオンライン開催となりましたが、物理的な移動がなく参加ハードルが下がったことから好評で、この成功を受けて、今回はさらに内容を充実させて開かれました。初めてカナダ、フランス、スペイン、イタリアと、米国外からの参加者も受け入れたことから、入場者数は2021年の5,000人を大きく上回る1万6,000人を記録しました。
専用サイトから会場内に入った参加者は、いわば総合案内所の役割の「ホワイエ(ロビー)」でのガイダンスを経て、あとは内部を自由に動き回り、大物ゲストを招いてのライブ配信、チュートリアルイベント、多彩なオンデマンド動画、ゲームなどのアトラクション、そしてもちろん、ショッピングを楽しむことができます。
「徹底した顧客中心主義」で知られるセフォラは、「顧客体験とエンゲージメントを高める→顧客が喜ぶ→ファンとしてコミュニティの一員になってくれる→売上が上がる」という一貫した思想が根底にあります。セフォリア2022も「どうすれば顧客を喜ばせることができるか」を突き詰めた設計がされていました。
セレブも登場、ゲーム感覚で楽しめる仕掛けが随所に
セフォリアのホワイエを取り囲むように配置された部屋は、「スパ」「サンルーム」「ホームシアター」「ラ・サラ(ファミリールーム)」「キッチン」の5つで、さらに開始から1時間後に「バックヤード(裏庭)」がオープンしました。
たとえば、ウエルネスがテーマのスパは、水をモチーフに滝やせせらぎ、プールが配置され清々しくリラックスした雰囲気、クリーン&サステナブルにフォーカスしたサンルームは花が咲き乱れ黄色を基調にした明るい空間など、部屋ごとにビジュアルががらりと変わり、飽きさせない工夫をしています。
サンルーム
各部屋では、その部屋に紐づけられたブランドの紹介動画をオンデマンドで視聴でき、同時にホームシアターでは、劇場風のセッティングのなかでライブ動画配信が行われました。レディ・ガガがプロデュースするブランド、Haus Labs by Lady Gagaのメイクアップアーティスト、サラ・タンノ(Sarah Tanno)氏のメッセージと、同ブランドアンバサダーのロカエル・リザマ(Rokael Lizama)氏によるファンデーションの使い方のチュートリアルや、「Cay Skin」の創業者で、白斑肌で知られるウィニー・ハーロウ氏がブランドの誕生秘話や自分で商品をどう使っているかを披露。そのほか、「Danessa Myricks Beauty」の創業者ダネッサ・マイリックス氏が新商品のパレットのチュートリアルを行いました。
こうしたライブ配信に関しては、他の部屋のコンテンツを見ている際にも、吹き出しで「もうすぐホームシアターでダネッサ・マイリックスのマスタークラスが始まるよ!」といったプッシュ案内があり、見逃し防止策としてはもちろん、豊富なコンテンツラインナップを印象づけました。
一方、今回新しい部屋として追加された「キッチン」では、クリスマスに向けたホリデーシーズン限定のギフトキットの先行プレビュー映像が展開されました。たとえば、YSLは、メイクアップアーティストのJ ブランドン・コリア(J. Brandon Correa)氏がパフューム「ブラック オピウム」の活用法や、アイライナー、リップなどホリデーシーズンのパーティにぴったりの商品を紹介。また、「Charlotte Tilbury」は、キッチンらしくピンクのエプロンをつけたスタッフが、クッキーやガミーベアなどお菓子をテーマにした限定コスメキットなどを取り上げました。
また、「SEPHORiA Wallet」で保存できるセフォラ初のNFTを、セフォリア参加者限定で無料配布も行いました。イベント開催前にSNS等でNFTプレゼントの告知をしたほか、どこでもらえるのか、どんなNFTなのか、ユーザーには会場内を回ることで自分で探し出す楽しみを提供。同時にNFT保持者には10%オフのプロモコードを付与するなど、単純に場所を教えて配るだけとはしないところに、エンゲージメントを高めていく工夫がみられます。当日、NFTはキッチンで配布され、最終的に約8,000のウォレットが作成されて、約6,500のNFTがユーザーの手元にわたったといいます。
このように、ユーザーが自ら積極的に参加することを促す仕組みは随所にあります。一例では、クリアするごとに1つトークンがもらえるゲームが1部屋に1つ設置されていて、トークンを5つ集めると、ホワイエのカウンターで、ロイヤリティプログラム「ビューティ・インサイダー」の500ポイントに変換できます。
また、ゲームはいずれも各部屋のテーマにあわせてカスタマイズされており、その部屋で紹介されている人気商品とブランド名をマッチさせるゲームや、商品を的にしたシューティングゲーム、商品と次のステージに行く扉を開く鍵を集めるゲームなどがあり、どれもシンプルながら、適度な難易度でエンゲージメントが高いのも特徴です。
サプライズとして、あえて開幕の1時間後にリリースした「バックヤード(裏庭)」は、DJブースを設けたり、「FORVR Mood」の創業者2人が人気商品のキャンドル「Caked Up」にちなんでストロベリー・シェークを作るバーなどでパーティムードを醸成。また、オブジェとして設置されたSEPHORAの各文字の内部に入れる仕掛けがあり、ハーロウ氏が親友とトークする動画、「Huda Beauty」のサブブランド「KAYALI FRAGRRANCE」を創業したモナ・カタン(Mona Kattan)氏の動画など、オンデマンドのスペシャルコンテンツが用意され、ついつい長居をしてしまうつくりとしています。
イベントポリシーとして多様性やインクルージョン、サステナビリティを重視
「多様性、インクルージョン、公平性においてナンバー1になる(To become the Diversity, Inclusion, and Equity Champion)」ことをビジョンとして掲げるセフォラは、2019年から「私たちは皆、なにか美しいものとつながっている(We belong to something beautiful)」をスローガンに、女性やLGBTQ+コミュニティのサポートをはじめ、インクルージョンへの取り組みに注力してきました。
今回のセフォリアでも、マスタークラスのライブ配信には、Cay Skinをはじめ、ヴィッキー・ツァイ(Victoria Tsai)氏の「Tacha」、Danessa Myricks Beauty、KAYALI FRAGRRANCEなど、BIPOC(黒人や先住民、有色人種)創業者によるセフォラ限定取扱いブランドが登場しました。
また、今回新しく追加された部屋「ラ・サラ」も多様性を意識した企画です。ラ・サラとは、スペイン語でファミリールームという意味で、BIPOCとヒスパニック系オーナーのビューティブランドをフィーチャーし、音声のメインの言語をスペイン語、英語は字幕という形で展開しました。
セレーナ・ゴメス氏の「Rare Beauty」やリアーナ氏のFenty Beautyが、BIPOCモデルを採用したメイクレッスンをスペイン語で提供。また、ジェニファー・ロペス氏が自身のブランド「JLo Beauty」を紹介。ほかにも、「Beautyblender」創業者のレイ・アン・シルバ(Rea Ann Silva)氏が母娘ふたりへのメイクチュートリアルをしたり、「Tata Harper」創業者タタ・ハーパー氏が娘や姪など実の家族と一緒にメイクレッスンをするなど、“ファミリーの絆”を強調した親密感のあるオンデマンド動画が多くみられました。
一方でサステナビリティの推進も行うセフォラは、2021年から独自の基準にもとづき、クリーンな成分だけでなく、気候変動への取り組みや責任ある原料調達を積極的に進めるブランドを「Clean + Planet Positive」として認定するプログラムを展開しており、そのビジョンはサンルームを中心に発信されました。Clean + Planet Positive認定ブランドの紹介に加え、セフォラの人気ビューティディレクターによるクリーンビューティのライブ配信なども実施。
さらに、「Clean + Planet Positive at Sephora」と題した、セフォラのサステナビリティへのイニシアチブに関するクイズ答えていくことで、たとえば、セフォラの店舗の何%が再生エネルギーで賄われているかなど、ユーザーがセフォラの取り組みを理解できる仕組みを作りました。
SNSを通じてファン同士の交流や顧客の要望を吸い上げ
セフォラは、これまでもテクノロジーを駆使して顧客からのコミュニケーションチャネルを増やすことで、ブランドと顧客、また顧客同士が互いの声を聞ける仕組みを作り上げてきており、そのノウハウは今回のセフォリアでも活かされていました。
一例では、バックヤードに、「GXVE」のグウェン・ステファニー氏や、ハーロウ氏、「Milk Makeup」のザナ・ロバーツ・ラッシー(Zanna Roberts Rassi)氏など、創業者が自社製品のユーザーのレビューを読んで、それに答えるオンデマンド動画「ホット・レイブ・レビュー」が設けられ、実際に商品を購入・使用した共感度の高いユーザーのリアルな声を伝えました。こうしたファンにとって“憧れ”のセレブ創業者による、ユーザーへの思いや感謝を示す生のリアクションは、ブランドロイヤリティの醸成につながると考えられます。
Where is @winnieharlow’s happy place? Hint: Think stripes 🖤🤍🖤#SEPHORiA2022 pic.twitter.com/SvGyecisSF
— Sephora (@Sephora) September 18, 2022
また、会場内のあちこちにInstagramのフィルター、GIF、動画などが撮影できるフォトブースを設置し、#SEPHORiAのタグ付けを推奨。ホワイエには、#SEPHORiAタグのユーザーコンテンツを紹介するエリアも設けました。セフォラのファンが集うコミュニティでも、SNSを通してセフォリアやNFTに関する質問、どのように楽しんだか、改良してほしい点といったユーザーのコメントが多く寄せられており、ユーザー同士の会話も活発で、ソーシャルメディアは、セフォラがより顧客満足度の高い体験を提供するためのヒントを拾う場としても機能していました。
セフォラの社外コミュニケーション・イベント・経験価値マーケティングのシニアVPであるジェス・ステーシー(Jess Stacey)氏は、「参加者に、より柔軟な参加方法を提供したい」と語り、2023年度は、リアルとバーチャルのハイブリッド展開の可能性を仄めかしています。ファンイベントであると同時に、重要なセールスイベントとしても、セフォリアの役割は今後ますます強まることが予想されます。
日本ではYSLや美的がビューティ関連のバーチャルイベントを開催
日本でも、小学館の美容誌「美的」が2021年4月に初のバーチャルフェス「バーチャル美的フェス2021 Spring」を開催。参加者がカバーモデルになりきった表紙の作成ができるPhotoスタジオや、人気美容家5名が究極の一品を紹介する“殿堂”などのコンテンツを提供しました。好評だったことから、同年12月には第2弾として「美的ベストコスメ2021 バーチャルツアー」も行われました。こちらは、美的公式キャラクターのアバターがガイド役を務め、編集部員のアバターがベストコスメ受賞アイテムを解説するなど、より没入感の高い空間づくりで話題となりました。
美的ベストコスメ2021 バーチャルツアー
出典:小学館プレスリリース
また、イヴ・サンローラン(YSL)では、「オールアワーズ リキッド」の発売を記念したグローバルイベント「YSL BEAUTY ZONE」の一環としてのバーチャルイベントを、2022年6月から約1カ月半にわたり開催しています。“TOKYO CITY”をイメージしたアーバンなナイトビューをバックにそびえ立つYSL BEAUTY ZONEバーチャルタワーが登場。このタワーの全5フロアでオールアワーズ リキッドをはじめとする人気アイテムがディスプレイされ、フロアごとにさまざまな特典やゲームなどのコンテンツが楽しめるショッピングイベントとしました。
YSL BEAUTY ZONE
出典:日本ロレアルプレスリリース
テクノロジーの加速度的な発展で技術的ハードルが下がっているのに加えて、メタバースなどのバーチャル体験への生活者の興味が高まっていることもあり、こうしたビューティイベントは今後、日本でもグローバルでも増えてくることが予想されています。
Text: 東リカ、@cosme for BUSINESS編集部
Photo: 東リカ
Top image: Sephora公式サイト
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