2024年、美容業界はどのような方向性に進んでいくのでしょう。@cosme for BUSINESSでは4つの注目のキーワードを選出、新たな年のトレンドを予測します。
①「顧客タッチポイント多様化」
オン/オフラインを超えて多様化する顧客タッチポイントに応えるリテールのあり方とは
2023年はリアル店舗に客足が戻り、美容業界ではオン/オフラインにまたがる多様な顧客タッチポイントを最大限活用する事例が多くみられました。実店舗ではフィジカルな体験を通して商品との出会いを楽しむ施策が設けられ、オンラインではメタバースや没入感のある楽しいショッピングの場を強化するといった、「リテールテイメント」とも呼ばれるこうした流れは、2024年もますます広がっていきそうです。
一例では、AIとKATE独自のロジックを掛け合わせたレコメンドをもとに、自分だけのアイシャドウパレットが作れるとSNSでも話題を呼んだ「KATE iCON BOX」や、自分が欲しい化粧品サンプルをタッチパネルから自由に選べ、行列ができるほど人気の「@cosme OSAKAコスメサンプルスタンド」があります。いずれもTOPPANが提供する自販機型什器「AIレコメンドベンダー®」をベースに設計されました。こうした“わざわざ店舗に足を運ぶ”動機づけとなる顧客タッチポイントの重要性が高まっています。
<@cosme for BUSINESS トレンドコラム>
KATE iCON BOXや@cosme OSAKAコスメサンプルスタンドなど自販機型什器の可能性
KATEはまたオンラインの世界で、顔タイプ分析をはじめ、パーソナルなメイク提案とバーチャルトライ、アイテムレコメンド、購入までが可能な没入体験型ECストア「KATE ZONE」も開設しています。
そのほか、マリークヮントは2022年12月に化粧品業界では初めて、世界最大級のVRイベントである「バーチャルマーケット2022」に出展しメタバース店舗を設置。自社EC経由の商品販売に加え、オリジナル3Dモデルも販売し、来店者のアバターがメイクや記念撮影が楽しめるコーナーを用意して、18万人を超える来場者数を記録しました。
海外でも、フィジカルとデジタルのタッチポイントをシームレスに行き来することで、ユーザーの期待に応え、想像を超える面白さや驚きを与える体験の重要性が語られています。LVMHは、欧州最大のテックイベント「VivaTeh 2023」において、ディオールの人間×テクノロジーが生み出すプレステージなスパ・ケアやホームフレグランス・ディフューザーなど、傘下のメゾン18ブランドのイノベーションを通して、顧客体験をより豊かなものにしていく意思を明らかにしています。
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LVMHが目指す現実と仮想世界での卓越性
②「センソリービューティ」
新しい感覚体験でユーザーの心にも働きかける製品がエンゲージメントを向上
肌に触れたときの付け心地としての“テクスチャー”や、手ざわりなどの“タッチ”を重視したり、今までにないユニークな使用法を提案する商品設計により、ユーザーに喜びや新鮮な驚きをもたらして、感情的な結びつきによるエンゲージメントをもたらす「センソリー(sensory:感覚的な)ビューティ」という概念が、仏パリで開催された化粧品国際展示会「Cosmetic 360 2023」で取り上げられるなど、欧米で注目されてきています。
たとえば、仏企業Technatureは、ミネラルパウダーを配合したオイルベースの処方で、温熱式のスティック状クレンジングを開発。あらかじめ顔表面を水で濡らし、スティックの先端で肌をなぞるようにつけると、ミネラルパウダーがじんわりと熱を持ち、毛穴が開いてより深くまで洗えるとしています。
日本でも、花王が提案する、肌と髪、全身に使用できるノンガスタイプの日焼け止め「ビオレUV アクアリッチ アクアプロテクトミスト」は、「ムラなく塗れる」「振らずに使える」「持ち運びしやすい」といった特徴が、エアゾールタイプのペインポイントを解消しつつ、新しい使用感をもたらしたと高い評価を受けています。ミストを噴霧すると肌上でミストが素早くジェル状に変化し、肌にも髪にも均一にムラなく密着することでSPF50、PA++++の紫外線防御効果を持つといいます。もともとは花王が発見した「毛髪は紫外線に当たることでうねる」という研究結果をもとに開発された商品で、「髪のUVケア」という新しい市場の開発にもつながることが期待されています。
センソリービューティという考えが現れた背景には、欧米のZ世代を中心に、日々の美容ルーティンと精神的な幸福の関係に関心が高まっている状況があります。つまり、製品の機能性だけではなく、その製品が自分の感覚といかに共鳴するかという視点から化粧品にアプローチする傾向があるのです。その意味で、セラムなどのスキンケア製品を使用する際にも、適度な粘度で肌にのせるとすっとなめらかに伸びて広がる使用感=感覚効果を、心を落ち着かせてくれる心理的な体験要素として評価するといいます。
たとえばメイクも、他人に“美しい”と承認されるためにするものではなく、自己表現や創造性の発露、あるいは個人的な楽しみの手段であるとする若い世代を中心に、化粧品を使うことで喜びや楽しさ、インスピレーションが与えられる「感覚的な体験」を期待する生活者が増えており、今後、センソリービューティが一般化していくことも予想されます。
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自分らしさを軸にするZ世代の心を掴むコミュニケーションとマーケティング
③「クリーン&グリーンテック」
バイオテクノロジーなど、サステナブルかつ高機能な製品開発を支えるR&D
藻類や植物、微生物など自然由来の素材を使用し、サステナブルであり、かつ効果・効能が科学的に実証された高機能な製品を開発する技術として、化粧品業界において、バイオテクノロジーに代表される「クリーン&グリーンテック」が注目を浴びています。この分野を牽引するのは、自然とサイエンスの持続可能な調和をうたい、環境への負荷を減らす製品開発哲学「グリーンサイエンス」を掲げるロレアルです。
ロレアルR&Iの先端研究部門 グローバル ディレクターのアン・コロンナ(Anne Colonna)氏は「バイオテクノロジーは自然そのものを革新する技術であり、原材料の調達や生産のスケールアップという点でも、自然環境に負荷の少ないバリューチェーンを実現する」と話し、オレンジに含まれるビタミンCを例に挙げ、化粧品に10%配合するビタミンC溶液に十分なビタミンCの抽出にはオレンジ数十個が必要になるが、バイオテクノロジーは、オレンジを絞るよりも費用対効果が高く環境に優しい方法で、より多くのビタミンCを複製し、生産することができると説明しています。
日本でも、自然素材を活かした化粧品原料開発の取り組みが活発化しています。アイスタイルが主催した「Japan Beauty and Fashion Tech Awards 2023」で大賞を受賞した、化粧品OEM事業を営むサティス製薬もその1つです。同社は、農業や漁業を営む日本各地の生産者を巡って地域の自然素材を発掘し、それを使用した化粧品原料を開発する「ふるさと元気プロジェクト」に13年にわたり取り組んでおり、蓄積されたそのデータベースには、サティス製薬が定めた7つの選定基準をクリアした100の独自原料が記載されています。
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日本各地で生産されている優れた天然素材を発掘し、化粧品原料化して製品開発を行うサティス製薬の「ふるさと元気プロジェクト」
また、アルビオンでは、秋田県の白神山地エリアに白神研究所を設立。現在、同研究所では、約6万2,000平方メートルの敷地をもつ自社農場で化粧品原料となる植物を有機農法により栽培して量産し、収穫から加工、出荷するとともに、併設する研究施設で化粧品成分の抽出まで一貫して行っています。このように、アルビオン独自のオリジナル成分開発への貢献に加え、地場のブドウ品種の栽培を維持するため、種からオイルを抽出し活用するほか、ワイン醸造にまで乗り出し、地域振興にも寄与しています。
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原料栽培から、オリジナル成分の開発、ワイン製造まで、拡大するアルビオン白神研究所の取り組み
クリーン&グリーンテックを志向する動きは世界的な傾向で、前述のロレアルをはじめ、化粧品や原料メーカーによるバイオテクノロジー関連企業やスタートアップへの投資や買収も積極的に行われています。
また、韓国OEM最大手のコスマックスがマイクロバイオームプラットフォーム開発に注力しているほか、同じく韓国アモーレパシフィックも1990年代からバイオテクノロジー関連の研究を推進しており、同社の研究所が発見した緑茶乳酸菌株を配合した製品の発売もしています。
④「生成AI」
クリエイティビティの増幅やユーザーコミュニケーションの最適化、美容業界での活用
AIの現状に関する最新のマッキンゼーグローバル調査では「2023年は生成AIがブレイクした年」と位置付けられました。2024年も生成AIの活用が爆発的な勢いで進むことが予想され、それはビューティ業界においても例外ではありません。
化粧品関連企業での生成AIの活用法としては、大きく分けて3つあると考えられます。1つは「肌分析やレコメンド、バーチャルトライオンなどのパーソナライズをより正確かつ深化」させることです。ARバーチャルメイクをはじめとしたプラットフォームを展開するパーフェクトでは、生成AIベースの技術の実用化を進めており、一例では、試してみたい髪型をユーザーの顔にフィットさせるにあたり、ただその髪型を顔にはめ込むのではなく、ユーザー自身の髪質や髪色を考慮して、現実世界でヘアスタイリングをしたらどのようなルックスになるのか、限りなくリアルに近いトライオンを実現する技術などがあげられます。
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リアルのコミュニケーションとユーザー体験をサポートするデジタルの活用
活用法の2つ目は「チャットボットや商品説明、SNSでの投稿などを生成AIで自動化することによるマーケティングの効率化」です。美容プラットフォーム「LIPS」を運営するAppBrewは、クチコミや商品情報など、LIPS内に蓄積された独自のデータを軸にOpen AIの言語モデルGPTをいち早く採用。2023年5月10日に、LIPS内でチャットサービス「LIPS AI バーチャルビューティーアドバイザー(β)」の提供を開始しました。従来のチャットボットよりも、言語理解や質問に対する反応に優れ、人間が対応しているかのように自然な言い回しで柔軟に回答するのが特徴で、無理なダイエットの相談など、ユーザーからの無謀な質問には危険性を伝え慎重な行動を促すなど、安全性や倫理性に配慮するチューニングもされています。
そして3つ目は「人間の創造性をサポートし拡張するツール」として使用することです。独創的なアイディアを生み出すという点では、人間の脳と経験値に勝るものはないものの、適切なガイドラインとプロンプトを入力することで、生成AIはクリエイターの有能なアシスタントになりうるでしょう。
Z世代の支持が厚い英カラーメイクブランド「Lottie London」は、2023年の「The Vampire Diaries」コレクションの発売に伴うハロウィンキャンペーンの立ち上げにあたり、画像生成AIで作成したシュールな画像をInstagram、TikTok、Likedinなどで公開。これは、消費者の興味をそそることで、ハロウィンとブランド名を結びつけたSNSでの会話を増進させる意図で行われました。結果、前年のハロウィンキャンペーンと比較して、エンゲージメントが710%増、インタラションは180%増を記録したといいます。
Lottie Londonはまた、同キャンペーンにおいてCGI(Computer Generated Imagery:CGによって制作された動画映像)ドローンアート広告も作成しています。実物のドローンを飛ばすのではなく、ドローンが夜空に花火のような絵を描くAIで生成した動画を各種SNSで共有することで、総合的な再生回数は55万回に達しました。潤沢な広告予算があるわけではないインディーズブランドLottie Londonによる、費用対効果の高い、創造的で話題性も期待できる動画を作成・拡散したこの手法は、クリエイティブにデジタルを活用するうえでのヒントを与えるものといえます。
@lottielondon guard your lips and hearts! our blood drip lip tints have landed in a store near you 💔 #thevampirediariesxlottielondon #lovesucks
♬ original sound - LottieLondon
Text: そごうあやこ
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