メンズ美容に対する「恥ずかしさ」の意識は、その商品やサービスを必要としているのに購入できないというジレンマを招きます。とくに、ベースメイクやポイントメイクは「恥ずかしい」と思う男性が3割弱にのぼるということがわかりました。男性に向けた美容情報の発信がますます重要だと言えそうです。
@cosme男性メンバーへインタビューして明らかになったユーザーインサイト
2024年3月26日に開催された@cosme for BUSINESS主催のウェビナー「男性美容・メンズコスメ市場のユーザーインサイトと現在地」では、調査会社の株式会社クロス・マーケティング リサーチャー 峯岸信也氏と、株式会社アイスタイル@cosmeリサーチプランナー 西原羽衣子が登壇。実態/意識調査からみるメンズ美容の概況と、@cosme男性メンバーへのインタビューによるユーザーインサイトをひも解きました。
ウェビナーでは最初に、クロス・マーケティングが2024年1月12日〜15日の4日間、日本全国(一部地域を除く)の20歳〜49歳の男女を対象に配信した男性美容に関するアンケートで得られた、2,400サンプルの回答にもとづく実態/意識調査の結果が紹介されました。
峯岸氏はまず、「洗顔」「ヘアケア」「髭剃り・グルーミング」などの身だしなみ関連の美容製品やサービスは男性の7割以上が実施しており、年齢が高いほど実施率も高い一方で、「ベースメイク」「ポイントメイク」「医療脱毛」「美容医療」を行なっている人は男性全体の1割に満たないことを明かします。
同時に、上記の7カテゴリーに「スキンケア」「日焼け止め・UVクリーム」「ヘアワックス・整髪」の3つを加えた10の商品・サービスへの月間平均支出額をみると、「男性25−29歳」層がそのうち7つの商品・サービスで平均支出額が高いことがわかりました。
該当しなかったのは、ほかに比べて1回の出費額が高い傾向で継続することが多い医療脱毛と美容医療に加え、ベースメイクでした。スキンケアの場合は、エイジングに伴い外見のケアの必要性を実感し、また一般的に収入にも余裕がある「男性45−49歳」層が中・高級価格帯製品を使用することで平均支出額が上がったとみられるため、美容関連製品における20代後半男性のポテンシャルの高さが、この回答結果からうかがえると峯岸氏は話します。
美容関連商品・サービスへの月間平均支出額
では、男性は何をきっかけに美容関連製品やサービスを利用するようになるのでしょうか。峯岸氏は「いずれのカテゴリーでも、『ほかの人がきれいな肌や整った外見であるよう気にかけているのをみて自分も興味を持った』との答えが多かった。また『ストレスや疲れの影響を肌や外見に感じたから』など、年齢や立場の変化が(美容に取り組む)理由のケースも多い」とします。一方で、ポイントメイクやヘアワックス・整髪剤においては、就職や結婚など新しいライフステージに入ったことで外見への意識が変わったことがきっかけという人が多いといいます。「配偶者からメイクのコツやおすすめの製品をアドバイスされて使うようになる」(峯岸氏)ことも少なくないそうです。
実際の商品の購入場所としては男女ともに「ドラッグストア」が最も多く、女性は「企業やブランドのECサイト・ECモール」が次に続き、男性も同じような傾向にあるものの、「大型スーパー・GMS」も高いポイントを示しているところが女性とは異なります。なかでも、敷居が高い場所としてあげられるのがデパートの化粧品売場です。たくさんの化粧品ブランドが1カ所に集結し、男性客はほとんどいない空間に「じろじろ見られている気がして恥ずかしい」と感じて足を踏み入れるのをためらう男性が相当数いると考えられます。
この「恥ずかしさ」の意識は、その商品やサービスを必要としているのに購入できないというジレンマを招きます。とくに、ベースメイクやポイントメイクは「恥ずかしい」と思う男性が3割弱おり、ニキビ跡や肌の色むらや、目の下のクマなど疲れた印象が気になる人でも、メイクが悩みを改善するのに役立つと思っているにもかかわらず、抵抗感がもたらされるようです。また、ベースメイクやポイントメイクの利用率が高い20代でも、ほかの年代同様に恥ずかしさを感じながら使用していることがアンケートの結果からわかります。
利用することへの恥ずかしさ TOP2はベースメイクとポイントメイク
峯岸氏は、日焼け対策としての必要性を感じて購入した日傘を実際にさしてみたものの、恥ずかしさが先に立って周りの目が気になり、結局1回しか使用しなかった自身の例をあげ、スキンケアやメイク、UVケアなどのいわゆる“美容”は男性がするものではないという、昔ながらの社会通念がいまだに影響している現状を示唆します。
こうしたことから峯岸氏は、男性における美容に関する悩みは「情報源」「商品選び」「肌・体質」の大きく3つに分けられるとします。とくに「世の中の目が気になる」「同性同士で教え合う機会がない」「美容についてどこで誰に聞けばいいかわからない」という声に代表される「情報源の不足・不案内」は、「自分に合う商品がわからず、何を買えばいいかもわからない」という「商品選びの不安」につながり、結果として、濃いヒゲやニキビのケアなど、多くの人が気にしている体質や肌質の悩みを改善する手段を手にできない悪循環が起きているといいます。
峯岸氏はまた、美容関連の情報収集源について「女性はInstagramが33.9%と最も高く、男性はテレビCMが15.9%で最多だ。ただし、20代前半に限っていえばXが16.5%と一番利用されている。全体としては情報を積極的に取りにいくというより、受動的に入ってくる情報を参考にしている。だが、若い世代を中心に自分と似たような肌質や悩みを持つ同性の人が何をしているかということを知りたい気持ちは強い」とアンケート結果を分析。男性が正しい美容情報を得られる場所や機会をもっと増やしていくことをはじめ、男性あるいはジェンダーフリーの化粧品の販売に際しては、なぜこの商品が良いのか、どんな悩みに応えるのかなど、製品情報をよりわかりやすく伝える工夫をする余地が、化粧品業界にはまだまだあるのではないかと峯岸氏は指摘します。
美容にエントリーするきっかけは女性、美容を趣味に昇華している男性ユーザーも出現
続いて@cosmeのリサーチプランナーである西原が、20代後半の男性で美容に「とても関心がある/関心がある」とする@cosmeメンバー4名に各自個別の対面インタビューをして聞き取り調査をした結果をシェアしました。このインタビューは男性が美容に関心を持つきっかけと、男性の美容情報源における性別の重要性を明らかにする目的で行われました。
25〜29歳の男性の@cosmeメンバー4名にインタビュー
西原は、この4人に関しては肌ケアなど美容を始めるきっかけは10代でニキビに悩んだか、そうではないかに分かれると話します。ニキビに悩んだAさんとCさんはいずれも母親に相談し、皮膚科医の治療を受けること、洗顔をまめにして肌を清潔に保つことのアドバイスをそれぞれ受けました。早い段階で肌の状態を自らチェックして手入れをする習慣を身につけた2人は、自然な流れで美容への関心が高まりさまざまな化粧品やケア法を試すハードルも下がったとみられます。
一方、ニキビ悩みがなかったBさんとDさんの場合、Bさんは大学生になってバイトをはじめ、自分で自由に使えるお金ができた頃から、好みのファッションやヘアスタイルを手にいれるのと同じような感覚で化粧品を購入するようになったといいます。これに対しDさんは、就職して同僚から「(肌の手入れを)そろそろ…ね」と言われて気にするようになり、同棲を始めた彼女から「化粧水と乳液は保湿のため」と教えられたことがきっかけで美容にめざめたとします。
ここでは、4人のうち3人が最初に美容の知識を与えてくれたのは家族や友人などの女性だったと回答しているのも特徴です。その背景には、思春期の男性にとっては同性とは美容の話をするのも聞かれるのも嫌だし、からかわれるのを恐れる、いわばタブーとなっている状況があります。クロス・マーケティングの調査でも明らかにされた“恥ずかしい”という心理的な壁がみられるわけで、その結果、美容へのエントリーには女性からの影響が大きいことになります。
あわせて西原は、ニキビ対策として洗顔を勧められたCさんが美容皮膚科をもっと早く知っていれば(もっと簡単にニキビを撃退できた)と悔やんだというエピソードを例に、相談する相手も手段もあまりない男性が限られた美容情報のなかで判断せざるを得ない現在の環境を指摘。「『AGA(男性型脱毛症)治療はクリニックで』とうたう広告がテレビやオンライン、紙媒体で頻繁に登場したことで、髪の悩みに対して病院に行くという選択肢があることを多くの男性が知ったように、美容の悩みをどう解決するかを示す啓発的なCMを作成するなど、ビューティ業界ができることはまだまだあると思う」と話します。
また、インタビューを受けた4人は揃って美容や化粧品購入の目的は「清潔感のある見ため」としながらも、目的のための手段である美容そのものへの関心が強まり、美容が楽しい趣味に昇華しているのではないかと西原は考察し、「彼らは、自分がキレイになるための選択肢がこんなにあるとワクワクしている。ブランドはこのニーズを逃してはならないのではないか」と話します。
インタビューサマリー
男性ユーザーと美容に関する視聴者からのQ&A
今回のウェビナーでは、事前に寄せられた質問や当日視聴中にでた質問に答える質疑応答の時間が設けられました。質問の一部と登壇者による回答を紹介します。
Q:現在、化粧品を取り扱う小売店ではメンズコスメ売場と女性用売場は分かれているのがほとんどですが、男性の生活者は、たとえばスキンケアを探す場合など、どちらに立ち寄っているのですか?
A:男性ユーザーの多くは、(店舗の)誰に聞けばいいかわからない、あるいは、店頭で表示されている情報が自分に合っているのか、正解なのかがわからないと感じています。そのため、他のコーナーにもいろいろな製品が置かれているが、とりあえずメンズコーナーに行けばいいのか、本当にそこだけ探せばいいのかなど、思い悩んでいるケースがかなりあるようです。
今回の調査では、そもそも男性は男性用化粧品を使うべきなのかを疑問に思い、そこを調べるところから始めたという回答もありました。現状、男性ユーザーにはその製品を使う理由がきちんと伝わっていないように感じられます。なぜ、自分には〇〇の製品が合うのかを納得できると、最初の商品選びが楽になると考えられるので、悩みに寄り添うようなアプローチが求められていると思います。
Q:リピート買いするポイントについて、クチコミ等からみえる傾向はありますか?
A:女性に比べて美容に関する情報が少ない男性にとって、自身の使っている化粧品が本当に自分に合っているのか、リピートに値するのかどうかを判断することは意外と自信がないのではないかと考えています。実際、@cosmeメンバーの6割が購入後の化粧品の評価を確認するためにクチコミを見るとしており、リピートするかどうかを決めるシーンにおいてもクチコミは重要な鍵となっています。またスキンケア・カテゴリーでは「ニキビ」「毎日」「リニューアルする」、UV・メイク・カテゴリーでは「日焼け止め」「クレンジング」「ウォータープルーフ」などが男性のクチコミに特徴的に出現しており、これらのニーズを満たすことも必要となりそうです。
男性のリピート購入によるクチコミに特徴的なワード
Q:男性のフレグランスに関する情報収集・購入行動について教えてください。
A:男性にとっても香りは関心が高く重要なアイテムです。男性のクチコミも多く両性から好感度が高いブランドとしては「メゾン マルジェラ」や「ジョー マローン ロンドン」などがあげられます。周囲とうまくやっていきたいと考える傾向が強い若い世代では、自分にはいい香りでも、周囲の人にとっては迷惑かもしれない(香害)と考え、万人受けする香りを好む傾向にあると考えています。
Text: そごうあやこ
株式会社クロス・マーケティング2024年2月8日リリース「メンズ美容に関する調査(2024)」
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