@cosme for Businessと美容特化のPRエージェンシー、メディア・グローブは、「ドランク エレファント」コミュニティマネージャー、女性誌『non-no』編集長、そして、人気美容インフルエンサーと、Z世代と日々向き合う3名をゲストに招き、「Z世代を動かす次世代のPR戦術」と題したウェビナーを2022年3月に開催しました。美容業界にとって重要なターゲット層であるZ世代とどう向き合うべきなのか、実際の現場からの知見にもとづく示唆に富んだディスカッションの一部を紹介します。
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オン/オフを行き来し情報確認、自分が納得してから動くZ世代
2021年に創刊50周年を迎えたnon-noは、美容やファッションに興味がある18歳〜23歳の大学生をメインの読者に持つ媒体です。株式会社集英社 non-noブランド総括/本誌 編集長である俵理佳子氏は、Z世代のハブといわれるこの層は、紙媒体、Webサイト、Instagramなどのソーシャルメディアと、複数のチャンネルで情報確認をするのが特徴で、SNSを鵜呑みにするのではなく、相対的に情報を取りにいき信用できるかを見定めるのが特徴だと話します。
non-noでは、読者数名を招き、その時々のテーマについて、本音や今の気分を自由に語ってもらうZoom会議形式のヒアリングを毎月必ず3回以上開いています。そこでみえてくるのも、たとえば、コスメ関連品のショッピングにあたっては、友達から聞いた評判や、SNS上のクチコミ、フォローしているインフルエンサーのおすすめなど、多角的な情報を吟味して、商品情報が信頼に値する=買う価値があると納得してから購入する姿勢だといいます。
またデジタルネイティブである彼らは、本心ではない発言や「バズる」ことを狙う投稿をみすかす力があるとして、メディアとして信頼を得るためには、徹底したリサーチによる正確性の担保はもとより、発信側の真摯な態度や誠実さが欠かせないとします。
株式会社集英社 non-noブランド総括/本誌 編集長 俵理佳子氏
あわせて俵氏は、この世代の人生や将来に関する価値観にも変化が起きていることを示唆します。non-noで行なった読者へのアンケートによると、1位の「年をとってもずっとキレイでいたい」は不動なものの、4位、5位、6位の上位に「世の中のために役に立つことをしたい」「キャリアアップしたい」「常に能力向上や自己啓発をしていきたい」という、数年前とは違う意見がランクインしているからです。
パンデミックの影響でキャンパスに行けなくなったり、外出が制限された巣ごもり状態の影響で、自分自身を振り返り、自分のことについて考える機会が増えたことで、「自己を高めたい」という意識が強まったのではと俵氏は分析し、一人ひとりの“個”を大事にする世代であり、世の中や自分を良くするために努力する「真面目で勉強好きな世代」ともみています。
ひとくくりにされたくない世代に向けた「系統別」の提案
また俵氏は、自分らしさという“個”を意識するZ世代は、ひとくくりにされたくないという気持ちが強いと指摘します。そこで、non-noでは本誌などのコンテンツにおいて「系統別に種分けした提案」をしているといいます。つまり、色の好みや似合うデザイン、求める仕上がりの傾向ごとに、いくつかの異なるスタイルの「系統」を提示し、読者が自分の判断で自分にあったものを選べるようにしているのです。この“あなたにはコレ”と押し付けるのではなく、ユーザー各自が自己を省みて、どれが自分にふさわしいかを決められるというところがポイントといえます。
ドランク エレファント コミュニティマネージャーの尾城友理氏もまた、「ドランク エレファントはデモクラティック(民主的)なブランド。年齢や性別を問わず、誰が使ってもいいというメッセージが基本にある」ことを前提としつつ、「米国発のブランドで本国では“あなたが好きに選んで”というスタンスだが、スキンケアに対する知識がより豊富で美容への熱意が高い日本では、こういう肌の方にはこの商品が向いているという、(ブランド側の専門家としての根拠にもとづいて)“系統に落とし込む”提案の仕方があっているように感じる」と話します。
ドランク エレファント コミュニティマネージャー 尾城友理氏
簡潔にまとめつつ、あえて“不完全さ”を残した短尺動画
では実際に、どのような方法で具体的な発信やアプローチを図っているのでしょう。10代〜20代を中心にSNS総フォロワー数70万人を擁する美容インフルエンサーのありちゃん氏は、「今のトレンドは確実に短尺(ショート)動画」と断言します。同時期に同じ企画で同じ商品の紹介をした長尺と短尺動画の視聴者数を例にあげ、15分以上の長さがあり、取り上げる商品数も多い長尺の2カ月間の再生数が10万〜20万なのに対し、約1分間の短尺の再生数は30万〜80万だったことを明かします。
美容インフルエンサー ありちゃん氏
「短尺では、最初に“売り切れ寸前”などキャッチーなワードで興味を掴み、1つの商品につき15秒で3つ紹介するのを基本としている。心がけているのは、簡潔でわかりやすいこと。そして嘘をつかず、誠実であること」と話すありちゃん氏。「この1分に大事なことをギュッと詰めて、お得感を出す」ことにもこだわり、時間をフル活用するため早送りした音声などの技も使っています。
ありちゃん氏は、短尺動画制作におけるもうひとつの大切な要素として「不完全さ」をあげます。芸能人などのようにそつなくスムーズにまとめるのではなく、「私は視聴者のみんなと同じ消費者という立場」であることを認識してもらうため、撮り方もあえて作り込まず、多少崩れたところもそのまま残して、ありのままの自分の話し方や言葉で訴えることで親近感が生まれるとともに、正直で誠意のある発信内容として信頼されることにつながるとします。
一方で、より深掘りしてじっくり語れる長尺コンテンツの意義も認めるありちゃん氏は、まず先に短尺を発信し、視聴者の「もっとみたい、詳しく知りたい」という気持ちを醸成したところで、同じテーマのロングバージョンをYouTubeに投入。短尺に比べ、クオリティが求められるYouTubeは制作に時間も費用もかかりますが、フォロワーが短尺動画から長尺を見て理解を深めるという導線設計、つまり、短尺による“種まき”で長尺のポテンシャルを最大限に発揮させることで、対費用効果を上げることにも成功しています。
「non-noの(Instagramの)リールの反響がすごい」と、やはり短尺を評価するのは俵氏で、リールのなかでも、メイクやヘアアレンジなどのHow toの反響が大きいといいます。「non-noのモデルはテレビや映画でも活躍する女優やタレント揃い。最初はプロが撮影したイメージムービー風の動画を作っていたが、そのうちに、むしろオフィシャル感がなく短時間で中身が詰まっていて、かつテンポの良い動画が読者に好まれると気づいた」として、制作現場では誌面とSNSを含むオンラインを連携させ、「1つの撮影現場で、このテーマはムービーを撮り、こちらの場面はYouTube、これは短尺というように、企画の段階で各メディアにあったコンテンツに使い分けを考えている」と明かします。本誌用にカメラマンがモデルや商品を撮影するかたわらで、編集者がスマホで現場の様子を撮り、アプリで編集して整え、すばやくSNSに投稿することもあります。
ブランドの伝えたいことをどう絞り込んで見せるか
「ドランク エレファントというストーリーのあるブランドとして、伝えたいことはたくさんある。でも長い文章には(人々は)抵抗感がある。また、Z世代はメールをあまり使わない」と話す尾城氏。そこで考えたのが、チャット画面でユーザーと対話をしているかのようなWebサイトコンテンツです。
「チャット形式でブランドフィロソフィーを学んでもらい、最後にその方の肌に合う商品はこれとお勧めするコンテンツとしている」(尾城氏)。購入前の消費者に楽しみながらブランドや製品を理解してもらうためのものと位置づけ、長い文章ではなくあえてライトなチャット形式で「続きが見たい、もう少し知りたい」と思ってもらえるように、ドランク エレファントらしい“Fun” な部分を残して仕上げることに配慮したといいいます。
あわせて、ドランク エレファントでは、フラットな関係のファンコミュニティにふさわしい、押し付けや一方通行とは無縁の、自然体で誠実なコミュニケーションを心がけているとします。
出典:ドランク エレファント日本公式Twitterアカウント
また、置いておくだけでキュートといわれるドランク エレファントは、いわゆる「パケ買い」も多いとされます。ウェビナーの参加者からは、そうしたSNSで目に留まった画像や動画をきっかけに購入したユーザーは、ファンになりにくく、離脱しやすいのではないかという質問が出ました。
これに対し、そもそもドランクエレファントは、まじめなスキンケアをハッピーな気持ちで楽しめるギャップが魅力のブランドであり、「パッケージが可愛い、色がきれいだからという接点から入った方にも、私たちはスキンケアに真摯に取り組んでおり、(製品を)使っていただいたなら“見ためはカワイイが、実はデキるやつ”と思っていただけるはず。逆にそのギャップに心を動かしてもらえると思っている」と、ブランドとしてユーザーとの接点はさまざまであってよいと尾城氏は話します。さらに、肌のことを一番に考えたフィロソフィーに触れてもらえれば、見た目だけではないブランドの魅力に気づいてもらえるとも考えています。
美容PRを支援する「ビューティプレスボード」
今回のウェビナーで最後に語られたのは、登壇したドランク エレファント、non-no編集部、ありちゃん氏が、ブランド、メディア、インフルエンサーのそれぞれの立場から、アイスタイルグループの株式会社メディア・グローブが提供する「ビューティプレスボード(以下、BPB)」を利用している点です。
BPBは、美容エディターやインフルエンサーと化粧品ブランドPR担当者をつなぐプラットフォームで、株式会社メディア・グローブPRプラットフォーム部 BPBグループマネージャー 蘆田成美によれば、ブランド側は新商品をはじめ、メディアに伝えたいリリースや商品情報の登録および一元管理が可能で、メディア側はそのデータベースから、特集などの企画や条件に合う商品の検索ができるといいます。
BPBはメディアやインフルエンサーと、ブランドをつなげる仕組み。利用は月額3万円〜
また、ブランドからメディアへの商品貸出機能を備えており、貸出在庫のデータ管理から貸出受付、依頼状況の管理などが可能です。メディアにとっては、掲載の内容にマッチしたブランドや製品を見つけるための情報収集や、自社から発信する情報のアップデートにかかる時間や手間が削減され、たとえば、これまでメールや電話でのやり取りで行なっていた撮影のための商品貸出がBPBで完結することで、大きな効率化が期待できます。
さらに、ダッシュボード上ではブランド側が、各メディア編集部の担当者をバイネームで選んで情報を送るといったこともでき、新規ブランドでもPR活動が行いやすい仕組みを備えています。
ドランク エレファントの尾城氏は「メールでリリースを配信すると、どうしても埋もれてしまいがちだが、その点、BPBはプレスにダイレクトにアプローチできる。プレスがどんなテーマで商品を探しているのかもわかるので、企画にあった自社商品を取り上げてくれるよう働きかけもできる」と話します。
また、non-noの俵氏は、編集部が企画を考えてもそれに合うブランドを探すのに時間がかかっていたという課題を解決できるとし、ありちゃん氏は「商品紹介の際には、極力実際に買ったものを使っているが、フルでカラーラインナップを揃えるのは難しい。コンテンツによっては、自分では購入しなかったがどうしても入れたい色や製品をBPB上でブランドに依頼し、貸し出してもらえるなど、制作の助けになっている」といいます。
ブランド側もメディア側も、これまでの煩雑な作業を極力効率化することで、本来一番大事にすべきエンドユーザーの体験づくりや、今回のウェビナーのテーマであるZ世代のコミュニケーションに注力すべきという結論で、ディスカッションは締めくくられました。