2023年12月12日開催のウェビナー「化粧品の情報収集実態とプラットフォーム横断活用の重要性」では、資生堂ジャパン、Meta(Facebook Japan)、アイスタイルの各担当者が、Instagramと@cosmeの横断活用についてそれぞれの立場から語りました。その内容をダイジェストでご紹介します。
第一部は@cosmeとInstagramの2つのプラットフォームの連動性などについて株式会社アイスタイル ブランドコミュニケーション企画開発本部 原久美子がアンケート結果をもとに解説。
第二部では化粧品ブランドがInstagramをマーケティングで活用するポイント、事例をFacebook Japan合同会社 マーケティングサイエンスリード 倉迫有沙氏が紹介しました。
第三部は2023年10月1日にリニューアル発売し、新規顧客数が前回リニューアル時の91%増と多数の新規顧客取り組みに成功した「SHISEIDO」の美容液「アルティミューン」の事例でした。@cosmeとInstagramを活用したマーケティングの裏側を、資生堂ジャパン株式会社 プレステージブランドマーケティング本部 グローバルブランドデジタルマーケティング戦略グループ ブランドマネージャー 千葉裕也氏が紹介しました。
商品の認知するきっかけはInstagram、その後購入の検討には@cosmeのクチコミが参考にされている
第一部では、アイスタイル原が2023年6月にアイスタイルが全国の15〜59歳女性1,600人に実施したアンケート調査の結果を紹介。それによると、化粧品や美容関連商品の情報を収集するために利用しているオンライン情報源(複数回答可)は、1位がInstagram(38.2%)、2位が@cosme(34.5%)でした。
化粧品情報の収集に利用しているオンライン情報源
また、これらのオンライン情報源を見る順番としては、Instagramを最初に見て、次に@cosmeを見る人が多いという結果となりました。
「化粧品をひとつ購入する際に接触するオンライン情報源の数は平均1.8個」という調査結果と合わせて、商品を認知するきっかけの情報源としてはInstagramが、その後購入を検討する際には@cosmeのクチコミが参考にされている状況が浮かび上がります。
情報収集する際に見る順番
@cosmeとSNS、それぞれを情報収集に利用する理由についてたずねる設問でも、@cosmeの利用理由は「購入を検討している特定の商品の情報やクチコミ情報を得るため」が58.7%と最も多く、SNSの利用理由と比較して20ポイント近く高くなっていたことからも、@cosmeは特定の商品についてピンポイントに調べる際に特に信頼を置かれていると分かりました。
SNSの利用理由として上位だった「リアルなユーザーの声・評価を知るため」や「使用感や色味、質感を知るため」は、@cosmeの利用理由としても同等のポイント数を得ており、@cosmeはSNSと同等の情報を得る情報源にもなっているようです。
@cosmeとSNSを情報収集に利用する理由
InstagramなどSNSで認知して、@cosmeでクチコミを確認してから買う、という流れは、@cosmeのクチコミ内容からも垣間見えました。近年「インスタグラマーが絶賛していたから」「美容系YouTubeで紹介されていたから」「SNSでよく見かけるから」といった購入動機がクチコミ中に安定して見られるようになっているのです。
SNSを見たことを示すワードがクチコミ中に安定して出現するように
また、実際の商品施策の分析からも、SNSで話題になると@cosmeの商品ページのPV数も伸長するなど、相関性や関連を見ることができると原。「生活者の状況・ニーズを理解し、目的に応じた@cosmeとInstagramなどSNSを連動させた施策を行うことで、生活者の購買行動を促進させることが目指せる」とします。
Instagramが提唱、ブランド、生活者、そしてクリエーターがブランドの価値を高める「価値共創マーケティング」とは
第二部では化粧品ブランドがInstagramをマーケティングで活用するポイントや事例がFacebook Japan倉迫氏から語られました。
Instagramでは、「価値共創マーケティング」という、もともと「R3コミュニケーション」として知られていたコミュニケーションデザインのフレームを提唱しているといいます。
従来、ブランドは生活者に対し、商品の機能価値やその世界観を施策や広告を通じて伝えていましたが、デジタル化が進み、特にSNSが普及以降は、生活者の商品に関する情報取得が多様化した結果、商品の機能価値だけでは購入する決断に至らないようになりました。
そこに「クリエイター」というポジションが生まれ、クリエイターからも、その商品を使ってどのように感じたかや、使い方などの文脈価値となる情報を生活者に伝えられるようになったというのです。
Instagramが提唱する「価値共創マーケティング」
そしてブランド、生活者(顧客)、クリエイターという3者が、一緒にブランドの価値を深めていくこと、それが価値共創マーケティングだと倉迫氏はいい、化粧品ブランドのマーケティングでも重要だとします。
また倉迫氏は「クリエイターには、インフルエンサーだけでなく、ブランドのファンとして熱量の高いクチコミやSNS投稿(ユーザー生成コンテンツ、以下UGC)を行う生活者も含まれる」と続けます。
例えば、花王株式会社の「ビオレUV」の事例では、過去のクリエイターとのタイアップ投稿や、UGCの中から反響が大きかった投稿を分析し、その分析内容を次にタイアップ投稿を依頼するクリエイターにオリエンで共有。そして分析内容を反映して制作した新たなタイアップ投稿を「パートナーシップ広告」として活用したところ、それらのパートナーシップ広告を見た生活者の購入行動は、見ていない生活者の19倍※に向上したといいます。※アジア平均
またパートナーシップ広告を見た生活者のInstagram上での対象商品に関する投稿数やコメント数を「会話量」として計測したところ、見る前と比較して3.9倍増加したといいます。
「パートナーシップ広告を見た生活者のもとで、ブランドに対して好意的な会話が発生しているという前提で、その会話量は、ブランドリフト(ブランディング広告の効果を調べる指標の一つ)の『自分に合ったブランドか(自分事化できたか)』『好きなブランドか』『独自性のあるブランドか』『トレンドを生み出しているブランドか』といったブランドエクイティ(ブランドの持つ価値の集合体)の項目と強い相関があることも分析の結果から分かっている。そのため、InstagramでのKPIを一度会話量に設定していただくのも良い」と倉迫氏。
倉迫氏はまた、Instagram施策の効果を最大限に高めるために、ブランド側では発信する内容について2つの点に注意が必要だと指摘します。
ひとつが生活者に伝えたいメッセージにブランド側の部署間でズレがあり統一性が感じられないケース、もうひとつが、実際の生活者のニーズと発信内容にギャップがあるケースです。そして、そうした問題を持つブランドに対しても企画の初期の段階であるコミュニケーションプランニングから、生活者に刺さると思われる施策の仮説立案や、クリエーターの選定をInstagramで収集するデ ータを元に進めることを推奨するといいます。
新規顧客数が前回リニューアル時の91%増※となったSHISEIDO 新アルティミューン発売の裏側
第三部では、グローバルプレステージブランド「SHISEIDO」を象徴する美容液「アルティミューン」の事例が資生堂ジャパン千葉氏から語られました。
アルティミューンは2023年10月1日に「アルティミューン™ パワライジングコンセントレート IIIn」(以下新アルティミューン)として日本限定でリニューアル発売。@cosmeのクチコミやInstagramをはじめ、複数のソーシャルプラットフォームのUGCをうまく活用したキャンペーンで「発売後2カ月における新規のお客さまによる購入が、2021年のリニューアル時と比べて、91%増※と、とても増えた」(千葉氏)といいます。※資生堂ジャパン調べ
アルティミューン™ パワライジングコンセントレート IIIn
新アルティミューンが新たな顧客を得ることに成功したコミュニケーションのポイントとはどのようなものだったのでしょうか。
千葉氏は、「前提として、愛用者拡大を目的とした、SHISEIDOのブランド体験価値の提供という最も大事な考え方が最上段にあり、それを踏まえてさまざまなタッチポイントで体験を設計している。パーソナルビューティーパートナーと呼ばれる資生堂美容部員による店頭応対を柱に、ブランド会員情報を踏まえたCRMメッセージ配信、そのほかにもオンライン・オフライン様々なタッチポイントで顧客体験を細かく設計している」と説明。
そのうえで、「今回、新アルティミューンの『睡眠不足などの多忙な日々による、お手入れ不足で起きる乾燥などの肌変化にもアプローチする』というPOD(差別化ポイント)が、@cosmeのクチコミやInstagramなどのUGC、また雑誌などメディア露出にしっかり落とし込まれ、製品の特徴を多くの人にわかりやすく伝えることができた」といいます。
様々なタッチポイントを組み合わせた施策
@cosmeでの施策については、発売2カ月前の2023年8月から、「体験型コンテンツ」を活用しての新アルティミューンをいち早く体験できる現品プレゼントキャンペーンや、当選者へ事前にサンプルを発送し手元で試せる環境で、特徴や使い方をオンラインでレクチャーする「オンライン体験会」を実施。また10月1日の発売以降は、東京・原宿の旗艦店 @cosmeTOKYOでポップアップイベントを実施、全国の@cosme STOREでも特設コーナーを設置するなどして、リニューアル発売の話題と評判を形成していきました。
発売前後に実施した@cosme施策
このなかで、特にオンライン体験会の参加者から良質のクチコミを得ることができたといいます。
「@cosmeのクチコミでは『モチモチする』『みずみずしく広がって香りもいい』といったテクスチャーや使用感について触れてくださっているものが非常に多いが、オンライン体験会に参加された方のクチコミには、『資生堂の研究成果がとても表れている』『睡眠不足に着目した製品に関心がある』といった内容も見られ、今回の新アルティミューンのPOD(差別化ポイント)へのとても高い共感を醸成する取り組みとなった」(千葉氏)。
10月1日の発売以降、@cosme 美容液部門における新アルティミューンのランキング順位は右肩上がりで推移し、11月2週目にはついにトップ3入りとなりました。
一方、Instagramにおいては第二部でも紹介されたブランド、クリエーター、生活者の3者による、「価値共創マーケティング」に取り組んでいるといいます。
Instagramでは価値共創マーケティングに取組む
「今回Instagramで新アルティミューンに関するUGCの質を判断するスコア(Instagramエンゲージメントスコア)は、2021年のリニューアル時と比較して411%増と非常に高い数字であった。どんな投稿切り口がエンゲージメントにつながりやすいのか、どんなクリエイターさんとの取組みが質の高いUGCを生むのか、しっかり今年の取り組みを検証して2024年に繋げていきたい」と千葉氏は意気込みます。
複数プラットフォームを組み合わせ、情報発信や体験機会をつくる重要性
新アルテミューンの好調はブランドSHISEIDOチームによる、年齢、肌質、ライフスタイルなど多様な属性を持つ生活者の刻一刻と変わる気持ちや認識に寄り添う、細やかなマーケティングのたまものといえるでしょう。「(商品の売上を伸ばすために)どのタイミングでどんな内容のUGCがあればいいのか、どうやったらそれが生まれるか、前例に囚われずに解像度高く設計できたことがポイントだった」と千葉氏。
また@cosmeやInstagramを含む複数のタッチポイントでの体験設計で重要だと考えていることは2つあると千葉氏はいいます。
「1つは基本的なことだが、過去にやったことをしっかり振り返ること。ブランドSHISEIDOはブランド会員情報をもとに、顧客の購入データを細かく取得できるが、様々な施策との相関を網羅的に見て、データを正しく読み取ることが振り返りとして非常に重要だと考えている。2つ目は、そこからの学びと仮説を、いかに柔軟にクイックに次の施策や取組みに生かしていくか。過去を振り返るとか、PDCAを回すことは基本的なことと聞こえるが、大きな組織だと十分にできない場合もある。『今まではこうだった』とか『前提がこうだから』という考え方ではなく、今の生活者、市場変化に沿った社内の仕組みとカルチャーをつくることが非常に大事。ブランドSHISEIDOチーム全員でこの点を意識できたことが、今回の結果に寄与したのではと考えている」(千葉氏)
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