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非接触ツールやOMO型店舗など、リアルなショッピング体験を変える店頭DX

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ワクチン接種が進み、パンデミックに伴う店舗の休業や時短などの各種制限や規制の解除が進みつつある欧米各国や、いち早く経済が回復基調にある中国では、実店舗に戻ってきた顧客の快適なショッピングをサポートするデジタルツールや各種サービスの導入が一気に加速しています。グローバルな視点から店頭DX(デジタルトランスフォーメーション)の“今”をレポートします。

ARバーチャルメイク・トライオン

パンデミックを経て、実店舗でのテスター使用やタッチアップをためらう顧客が少なくない状況に対応して、店頭でのソリューションを提案したのは、AR/AI技術を応用したバーチャルメイクアプリを開発するパーフェクトです。同社はリアル店舗での美容体験として、タッチパネル上で行うバーチャルメイクの先駆者ですが、消費者がマスクを着用して来店するようになったのを受け、マスクを認識して、マスク以外のパーツでシミュレーションをスムーズに楽しめるようにアプリケーションを改良しました。また、マスクのためにシミュレーションができなくなった口紅に関しては、腕に10色ほどリップシェードをバーチャルで映し出すことで、肌トーンとの相性を確認できるよう工夫を加えました。

さらに、消費者がタッチパネルに触れずに済むように、ジェスチャーや音声でバーチャルメイクや写真撮影の操作を可能にしています。8つのジェスチャーは起動時にイラストとともに画面で説明され、親指で左を指せば「次の色」、下を指せば「前のカテゴリー」、ピースサインで「写真を撮る」といった具合に指示が出せます。そして、最後に画面上に現れるQRコードをスマートフォンでスキャンすると、バーチャルトライした商品の詳細情報が得られるようになっています。

AI活用型店舗ファクトリー

韓国アモーレパシフィックはソウルの旗艦店の店頭に、カスタムリップの製造マシン「Lip Factory by Color Tailor Smart Factory System」を導入しています。ユーザーがAI搭載のモバイルアプリ「Color Tailor」を使って好みの色調などの質問に回答していくと、2,000のカラーシェードのオプションのなかから、AIがユーザーにパーソナライズした色味を提案。アプリを通してユーザーがチョイスしたシェードのオーダーにもとづき、マシンがカラーピグメントを0.1gずつ加える精密なIoT技術により、ユーザーの希望に合致した色味のリップを数分で製造します。

ずらりと並んだカラーピグメントのボトルから必要な色素を選び、目の前で混ぜ合わせていく過程が見られるところに、エンターテイメント性を盛り込み、店舗を訪れた自分のためだけに作られている特別感を感じる体験を組み込んだ点も、人気が高い理由の一つです。

また、アモーレパシフィックは2021年5月、韓国スウォン市に、バスボムをその場でオーダーメイドできるキオスク型ショップをオープンしました。こちらも好みの香り、色など簡単な質問に答えると14種類のメニューから顧客に合ったバスボムが提案されます。注文を受けるとロボットがただちに調合し、リサイクルペーパーに包み2分で商品を完成させる仕組みです。

図2-Jul-14-2021-06-24-25-80-AM出典:アモーレパシフィック公式サイト

非接触テスター

テスターやサンプリングでは、安全性とサステナブルを考慮した方法が模索されています。仏Meiyumeは、手をかざすと適量の美容液が滴下する、モーションセンサーを使ったディスペンサーを開発しました。顧客が自らセンサーに近づいて試すため、店舗スタッフとの適度な距離も保つことができ、消費者・従業員双方の安全を考えたテスターデバイスとして、購入前に商品の香りやテクスチャーを試したい消費者ニーズに応えます。

商品企画や販売計画を担う仏企業GK Conceptも同様に、店頭に設置する化粧品の非接触型テスターデバイス「Dropper」を開発しました。顧客が手を差し出すと、クリームやセラム、ファンデーションなどの液状製品を適量分、自動で手のひらに滴下します。同社は2018年に、香水を自動で紙に吹き付ける装置「Paperscent」を開発しており、導入店ではテスターが多く利用され、売上が30%増加しているそうです。

dropper_hp出典:GK Concept公式サイト

遠隔では伝えにくい香りのソリューションとしては、ブラジル企業NOARが、20種のフレグランスを100プッシュ分入れられるタブレット型のデバイス「MultiScent 20」を提案。ユーザーがデバイスに表示されたQRコードをスキャンし、モバイルアプリ上の商品カタログから好きなフレグランスを選択すると、その香りがデバイスから噴射されます。リアル店舗での非接触ツールとして展開が可能で、あわせて、従来型のフレグランスのサンプリングやテスターで使用される紙やプラスチックなどの廃棄物も減らせるとしています。

図4-1出典:NOAR公式サイト

フィジタルなショッピング体験

また実店舗において、フィジタル(フィジカルとデジタルをかけあわせた造語)なショッピング体験を実現する企業も登場しています。米Perch interactiveは、陳列された商品に触れたり、手に取ると、その商品情報を即座に備え付けのデジタル画面に表示するサービスを提供しています。ブランドは消費者に伝えたい情報を瞬時に表示でき、消費者はタイムリーに自分が知りたい情報を得られるのが特長です。QRコードを表示して、アプリ上で商品の色やデザインをパーソナライズしたり、決済するといった消費者側の利便性の向上はもちろん、企業やブランド側は、取得した顧客の購買行動データを分析することで、百貨店や小売店にブランド価値や利益の上がる陳列棚を提案することも可能にします。

図5-1出典:Perch interactive公式サイト

最先端のフィジタル体験の例としては、美容部員などによる接客販売を一切廃し、店舗でも顧客がスマートフォンを駆使してセルフでお試しや購入をする、中国のOMO型化粧品小売店チェーン「ONLY WRITE」があげられます。同店では商品のほとんどは倉庫に置いてあり、棚に陳列されている商品は顧客が自由にトライアルをするためのものです。店舗を訪れたビジターは買いたい商品があればスマートフォンでQRコードを読みとり、その場で決済できます。カウンターはお金を払う場所ではなく、決済後の商品を受け取る場所なのです。

 こうした店舗設計の背景には、中国の化粧品ユーザーの86%が実店舗での購入を第一の選択肢に考えており(ロイター調べ)、たくさんの商品に囲まれて、心ゆくまでアイテムを吟味し、あれこれ試せる実店舗のショッピングの楽しさを求めている一方で、デジタルネイティブの若年層は、販売スタッフによる対面接客を好まない傾向にあることが背景になっています。

図6-1出典:ONLY WRITE Weibo公式アカウント

ONLY WRITEでは今後、商品の詳細など、従来は販売スタッフに質問していたことを、デジタル化した「スマートショッピングガイド」をスマートフォンから参照できるようにすることで、顧客の利便性を高める計画です。

 このほかにも中国では、化粧品小売店の店頭のQRコードからWeChatのロイヤリティプログラムやオンラインでの特別体験に誘導するなど、リアル店舗に足を運ぶことで得られるフィジタルなストア体験も行われています。

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