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経産省と資生堂IBが語る、ビジネス変革につながるDXに欠かせないブリッジ人材

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2022325日、@cosme for BUSINESS「美容業界DXにおけるブリッジ人材の重要性 〜2030年からの逆算〜」ウェビナーを開催。美容業界においても今後のビジネスの鍵となるデジタルトランスフォーメーション(DX)と、その推進を担う人材にフォーカスしたセッションが行われました。登壇した経済産業省 松本理恵氏、資生堂インタラクティブビューティー株式会社(以下、資生堂IB) 笹間靖彦氏、そして、アクセンチュア株式会社 枩崎(まつざき)由美氏が語ったDX人材育成の現在地を通してみえてきた、ビジネス変革(BX)の成否につながる組織と人材のあり方について紹介します。

美容業界DXにおけるブリッジ人材の重要性 〜2030年からの逆算〜」アーカイブ動画の視聴はこちら

日本のDXの現場では何が起きているのか

世界情勢や経済情勢が極めて不安定かつ不確実な現在、ビジネスの将来を考えたときに欠かせないのがDXであり、既存の仕組みをデジタルシフトするのみならず、テクノロジーを介して、時代の変化に対応していけるビジネスへの変革が求められています。同ウェビナーでは、その変革が実行可能な組織とはどういうものなのか、そして、どのような人材を揃え、どのような体制を構築すべきかについて語られました。

ウェビナーは二部構成で行われ、第一部では、経済産業省 情報技術利用促進課の松本氏が、日本におけるDX推進にあたっての課題やDX人材を取り巻く状況を解説するとともに、日本企業のDXを支援する経済産業省の取り組みを紹介しました。

第二部には、美容業界の最前線でDX推進を図る資生堂IBから、笹間氏と枩崎氏がパネリストとして登場。同社が組織・人材領域においてどんなプロジェクトを進行中なのか、課題感を含め、実際の事例とともに明らかにされました。

経産省からの提言、DX推進に重要な役割を果たす「ブリッジ人材」

昨今、グローバル企業を中心に、DX推進の旗振り役を担うCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)の役職を設ける企業が増えています。しかし、松本氏が資料として示した「DX白書2021」(情報処理推進機構)によると、米国と日本のCDOの有無を比較すると、7割近い企業がCDOをおく米国に対し、日本は2割強で、日本において最もCDO率の高い産業である「金融業・保険業」でも39.5%にとどまり、米国で率の最も低い「サービス業」の43.2%を下回っています。

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松本氏は、日本においてDXが進まない現状の裏には、「DXの目的が分からない」「どうすればDXになるのかが分からない」「DXの進め方が分からない」という3つの「分からない」があると分析します。つまり、経営者が自社のDXのビジョンを持てていなかったり、DXの狙いを理解していないために、必要な体制づくりが進まず、せっかく任命したCDOが十分な権限を与えられず孤立するといった事態も起こるといいます。また社内の部門レベルにおいても、部門ごとにDXでやりたいことがバラバラで組織としての方向性がなく、IT部門が使いたい技術ありきで進めたり、システムの刷新自体が目的となってしまった結果、ビジネス変革にまではつながらない状況にもなりかねません。

20220418_1経済産業省 情報技術利用促進課 課長補佐 松本理恵氏

こうした課題を解決する糸口として松本氏が提案するのが、「DXとビジネスの両方を理解しており、社内においてデジタルと事業の橋渡しができるブリッジ人材を育成」することです。デジタル知識を備え、事業やマーケティングを含めた企画立案ができる人材は、ビジネスのことがよくわかっているからこそ、どうデジタル技術を活用し、より良いビジネスを築いていくかという道筋が示せるからです。企業ニーズの高いプロダクトマネージャーやビジネスデザイナーとして、ブリッジ人材が活躍していくことが望まれています。

経営層のマインドセット変革と各自の「リスキル」の重要性

あわせて松本氏は、日本ではデジタル人材そのものが不足しており、それが国際的なデジタル競争力低下の一因になっていると明かします。企業側にもデジタル人材が足りていないとの認識はあるものの、手を打てていないのが実情です。

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根本的課題としてあげられるのは、日本企業の多くが企業ミッションとして「既存ビジネスの効率化」を掲げ、IT技術をそのための単なるツールとみなしているところにあると、松本氏は説明。「効率化してコストを下げることをデジタル導入の目的としてしまうと、コスト削減幅のなかにデジタルへの投資分を収めなければならない。それがデジタル人材の報酬を安くさせ、デジタル人材教育にお金をかけないことにつながってしまっている」とします。

しかしそれでは、パンデミックも経てさらなる急務となっているDXの加速にブレーキがかかってしまいます。松本氏は「これからは、デジタルでいかにビジネスを革新していくか。すなわち、新しい事業やビジネスのあり方を生み出していけるかという、経営層も含めた意識改革が重要だ」と、DXをバネにしたBXの実現を説き、効率化ではなく「ビジネス創造・革新」を目的と定め「IT自体がその武器となる」という認識に加え、DXはそのための投資であるというマインドセットに切り替える必要性を訴えます。

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その意味からも、デジタル人材の育成とは、社内の全員がデジタルを理解し、1つの目的に向け一緒に走っていけることを目指しているといえます。そして、ここで重要となるのが「リスキル=学び直す」ことだと松本氏は話します。学校教育のカリキュラムが変わり、高等学校では2022年度から「情報I」が共通必履修科目となっていることから、今後、現役社会人のデジタルリテラシーを高めて、社内にギャップが発生しないようにする必要があります。データ、AIITを学ぶうえで参考となる入門レベルの試験や検定として「ITパスポート試験」「G検定」「データサイエンティスト検定」などを、松本氏はあげます。

同時に同じく不足しているITエンジニアを増やすため、経済産業省では「クラウド」「IoT」「データサイエンス」など9つの分野で、民間企業が行う各種講座のなかから良質なものを厳選して「Reスキル講座」として認定しています。認定講座には、個人での受講や企業研修で使える助成金の支給もあります。

また、民間における人材投資の促進を目的に、企業や地方自治体の職員の研修が行える教育コンテンツやスキル標準を定めた「デジタル人材育成プラットフォーム」を立ち上げ。20223月にポータルサイト「マナビDX(デラックス)」をオープンしました。

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企業は自社社員の研修に活用できるほか、社員数が少なく長期の研修にスタッフを割くことが難しい中小企業などには、現場研修のチームを受け入れるオプションも設けています。これは、ポータルサイトを通じて専門スキルを学んだデジタル人材が他企業に行って、現場で求められるデジタル技術を実際に導入する研修をするもので、研修員はスキルの向上が図れ、受け入れ側は自分たちだけではできなかったDXにチャレンジできるメリットがあります。

同プラットフォームの活用により、産業や企業規模をまたいだ交流が促進され、さまざまなレベルでDXが実現されることが期待されています。

資生堂IBが全員で取り組むDXを推進させる組織づくりと人材

202171日、資生堂とアクセンチュアが、グループ全体のBXの加速をサポートするデジタル専門家集団としてのジョイントベンチャー、資生堂IBの設立を発表。業界内外で大きな話題を呼びました。

同社が果たす役割について、DX本部 デジタル戦略部長を務める笹間氏は、「革新的なビューティ体験を共創しつづけ、資生堂が目指すGlobal No.1 Date Driven Skin Beauty Companyへの変革を牽引する」ものと位置づけています。具体的には「オンリーワンの顧客体験の創造」や「グループ全体の基幹システムの標準化・効率化」をあげ、「既存領域のサポート、新技術の開発、データ分析、インフラ整備など、さまざまな領域で同時多発的にDXを進めていくなかで、人材育成は急務だ」と語ります。

20220418_5資生堂インタラクティブビューティー株式会社
DX
本部 デジタル戦略部長 笹間靖彦氏

「人材」「体験」「企業文化」DX推進におけるキーワード

笹間氏は、資生堂グループにおける「DX推進重点方針」としていくつかのポイントをあげます。その1つめは「組織強化と人材育成」です。「(IT部門ではなく)営業だから、店頭だから、デジタルに明るくなくてもいいわけではない。全社員がデジタルを知っているべきだ」とする笹間氏は、全社が一丸となってDXを推進するうえで、組織全体としてデジタルリタラシーを強化することが必要だと考えています。

たとえば、肌のDNA分析にもとづくカウンセリング「Beauty DNA Program」や、デジタルに特化した111対多のコンサルティングやライブストリーミングなど、デジタルを活用したサービスやプログラムがすでに数多く始まっていると話す笹間氏は、その現場でも、デジタルスキルに加えて、事業のことをよく理解している、いわゆるブリッジ人材が求められるとします。

20220418_8Beauty DNA Programイメージ図
出典:資生堂プレスリリース

こうした「顧客にオンリーワンの体験」を提供することは、DX推進重点ポイントの2つめにも重なります。笹間氏は「店頭と店頭の間の接点として、デジタルコミュニケーションを挟むことで、一人ひとりのお客様をより深く理解してつながることができる」とし、来店した顧客にサンプルを渡したのち、次の来店までの間に、ARによるシミュレーションを案内したり、チャットで声がけをするといった、店頭以外の場所での体験の重要性を示します。

データを「美容部員の言葉」に置き換えていく大切さ

アクセンチュアから資生堂IBに出向している枩崎氏も「デジタル化とは、たとえばMA(マーケティング・オートメーション)のように、機械的にデジタルメッセージを出し分けることではない」とし、「データを使い、個々のお客様をきちんと分析し、カウンセリングをするBC(美容部員)の言葉に置き換えていくことが大切だ」と話します。つまり、デジタルを活用して顧客との接点の数と中身を増幅させるとともに、それを人と人とのコミュニケーションの体験に置き換えることで、関係性が深化するというのです。BCが再度来店する前の顧客の動きを把握していれば、より適切な応対やレコメンドができ、顧客側も自分をわかってくれていると感じて満足度もあがると考えられます。

20220418_7アクセンチュア株式会社
インタラクティブ本部 マネジング・ディレクター
枩崎(まつざき)由美

こうした進行中の一連のDXソリューションをもとに、笹間氏は「モノを売るということはもちろん大切なのだが、どう体験を積み重ねるかを考えることの重要性を再認識して、その方向に軸足を移している」と明言します。

あわせて、化粧品メーカーとして「モノづくり」を重視する姿勢に変わりはないが、「一人ひとりの顧客と向き合い、いかに深く長くお付き合いいただけるかが、重要なテーマとなりつつある。(顧客との関係も)モノがベースではなく、人がベースになっていくのではないか」との考え方を笹間氏は示します。

さらに笹間氏は、資生堂が創業以来、美容法の提案やカウンセリングを重視する企業文化的アセットを持っており、人と人との接点を大事にしてきたことを例示し、3つめのDX推進重点ポイントとして、「組織(社内・企業)文化との融合」をあげます。

グループ内で人材を連動させることも念頭に、枩崎氏は「資生堂IB内にとどまらず、資生堂全体の交流を広げる」ことで、領域をまたいで活動できる、マルチタスク、マルチスキルを持つ人材を増やしたいとします。そのために「研修での共通言語の構築や、目標をシンプルにして、同じ1つの方向へ走りやすくする」のが大切であると語りました。

アイスタイルは美容業界に特化したDX推進プログラムを提供

同ウェビナーの最後には、アイスタイルが進める、美容業界特有の課題やデジタルシフトに特化した「美容業界DX推進プログラム」が紹介されました。同プログラムでは、第一弾として、美容業界に関わるさまざまな人材に向けた導入研修ワークショップと、美容部員を対象にした座学とロールプレイをセットにした研修プログラムがリリースされています。

美容業界イノベーションワークショップ
社会の変化と美容業界のトレンドを俯瞰して、510年後のビジネスについて、インプット&アウトプットセッションを行う導入研修。前半セッションで「美容業界のDXの現状など何が起きているのか」や「2030年以降、社会がどう変わっていくのか」をインプットし、自社の方向性やビジョンを改めて考察することで理解を深めます。後半で、その理解にもとづいた自身のアイディアをアウトプットしてシェアすることで、意識や業務の品質の向上やブラッシュアップが期待できます。

明日からできるライブコマース・ライブ配信
ライブコマースやライブ配信の基本と特徴を前半の座学で理解したのち、ロールプレイングセッションで、出演者、サービスディレクター、オペレーターのワンチームでロールプレイをすることで、それぞれの役割のスキルを身につけます。

明日からできるオンラインカウンセリング
オンラインカウンセリングの基本と特徴を理解したのち、ロールプレイングセッションで、出演者、サービスディレクター、オペレーターのワンチームでロールプレイをすることで、それぞれの役割のスキルを身につけます。

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Top image & photo: @cosme for BUSINESS

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