2024年、韓国の対米化粧品輸出額は約17億100万ドル(約2,461億円)となり、長年トップだったフランスを上回りました。2010年代にアモーレパシフィックがBBクリームやクッションファンデで市場を切り開き、その後は中堅・新興ブランドが続々と参入。機能性と手頃な価格、SNS映えを兼ね備えた韓国コスメは、パンデミックを機に米国でいっそう存在感を高めました。その軌跡をたどり、何が奏功したのかを振り返ります。
2017年と2023年におとずれたターニングポイント
2025年3月30日、ブルームバーグは米国際貿易委員会の資料を引用し、2024年の対米化粧品輸出額で韓国が17億100万ドル(約2,461億円)を記録したと報じました。フランスの12億6,300万ドル(約1,827億円)を抜いて1位となり、3位以下にはカナダ、イタリア、中国、メキシコなどが続きました。ちなみに2024年に日本が米国へ輸出した化粧品総額は約2億2,610万ドル(約327億円)で、国別では第8位でした。
韓国の規制当局である食品医薬品安全処の集計によれば、2024年の世界への韓国化粧品輸出額は新興ブランドの躍進を背景に102億ドル(1兆4,758億円)と過去最高を記録しています。また同年は、海外の化粧品企業やファンドによる韓国中小・新興ビューティ企業の買収案件が18件で歴代最多となりました。韓国国内では、業界全体が活況を呈するなか、対米輸出額も好調な結果になったというメディア報道が目立ちます。
米国でK-Beautyが注目されたきっかけは、2010年代前半、アモーレパシフィック傘下ブランドによるBBクリームやクッションファンデといった韓国発のユニークなアイテムが注目されたことです。これらの生産技術をアモーレパシフィックは独占せず、韓国の多くのOEM企業が生産を行い、さまざまな新興ブランドが飛躍するきっかけをつくりました。
そしてこうした製品がK-Beautyの火付け役となり、K-POPや韓流ドラマなどカルチャーの影響を活用したマーケティングや、Instagram、TikTokなどを使ったSNS戦略が、ミクロ視点でみたときの成功を支えた要因としてよく挙げられます。
その一方で、マクロ視点の要因としては、中国市場への高依存から脱し、米国を主要市場としてフォーカスしはじめたことが大きいといえるでしょう。中国における景気悪化や中国国産新興ブランドの台頭などにより韓国コスメの消費が鈍化したことを受け、米国市場を目指すブランドが増えた結果、対米輸出額が増加したというわけです。
韓国化粧品の対米輸出額が増加傾向を強めた第一のターニングポイントは2017年頃にあります。韓国化粧品の対米輸出額は、2014年1億2,716万ドル(約183億円)、2015年2億1,753万ドル(約314億円)、2016年3億1,685万ドル(458億円)だったのが、2017年は北米向けで5億ドル(約723億円)と大きく伸長したのです。
2016年は韓国内に米軍のTHAAD(サード/ 弾道ミサイル迎撃システム)配備が決定された年です。2017年には、政治的対立からそれまで主要な輸出先だった中国で韓国製品のボイコット運動が起こり、新たな輸出先を模索する韓国化粧品業界の動きが顕著になりました。また2017年は、米国進出の先駆けとなった、コスアールエックス(COSRX)やアモーレパシフィックのラネージュ(LANEIGE)が、美容小売チェーンであるアルタビューティ(以下、アルタ)やセフォラの米国内オフライン店舗で取り扱いが開始された時期とも重なります。
加えて、韓国化粧品の対米輸出額が一気に増加したもうひとつのターニングポイントが、コロナ禍が収束した2023年です。2021年から2022年にかけて約8億ドル(約1,157億円)で推移していた輸出額は、2023年に一気に約12億ドル(約1,736億円)まで増加しました。
アモーレパシフィックは前年比82%増の成長
アモーレパシフィックは、近年も北米への攻勢を強めています。同社の2024年の北米エリアでの売上は5,246億ウォン(約577億円)でした。これは2,867億ウォン(約292億円)だった2023年と比較すると82%増の成長です。
アモーレパシフィックに関しては、近年、米国国内でデジタル広告の出稿を活発化させているというデータもあります。米国の調査会社Sensor Towerが発行している資料によると、2024年3月から2025年2月にかけて、米国内でスキンケア関連のデジタル広告を出稿したアジア・太平洋地域の企業のうち、アモーレパシフィックはインプレッション数(広告表示数)で2位でした。
同統計では1位に花王、7位に資生堂がそれぞれランクインしていて、そのほかの韓国企業としては3位APR、4位クレイブビューティー(Krave Beauty)、5位コスアールエックス、6位Stylevana、9位SKIN1004などが名を連ねています。
アモーレパシフィックのブランドのうち、米国国内で最も活発にデジタル広告の出稿を行っているのはラネージュで、全体の66%を占めます。次いでイニスフリー(innisfree)(16%)、ソルファス(Sulwhasoo)(15%)の順です。ラネージュのインプレッション数は、2022年に前年比208%増、2023年に同135%増加していて、2024年第4四半期にはその成果が現れ、売上も127%増加したとされています。アモーレパシフィックは、ラネージュを中心とした主要ブランドに広告費予算を積極的に投下することで、米国進出に拍車をかけているといえます。
一方、韓国大手のLG生活健康の2024年の北米地域の売上高は、5,662億ウォン(約622億円)と報じられています。同地域における2023年の売上は6,413億ウォン(約705億円)で2024年は約12%のマイナス成長となりました。
LG生活健康は、輸出のみならず米国ブランドの買収を通じた現地進出を主要な戦略としているため、この売上高は輸出額には含まれませんが、2019年、米エイボン(AVON)の買収を皮切りに、2020年にはフィジオジェル(PHYSIOGEL)のアジア・北米事業権を取得。続く2021年にはヴィーガンヘアケアブランドのアークティックフォックス(Arctic Fox)を運営するボインカ(Boinca)、2022年にはザ・クレームショップ(The Crème Shop)をグループに迎え入れています。
LG生活健康では、これらの米国ブランドを通じて市場を分析しつつ、すでに米国内で認知度を獲得しているLG生活健康のブランド、ビリーフ(belif)や、ザ・フェイスショップ(THE FACE SHOP)に加え、ザ・フー(The WHOO)など自社主要ブランドを米国現地に展開する計画も発表しています。ただし現在はそれほど目立った動きはなく、韓国国内ではLG生活健康は他社に比べて米国進出が遅れている、あるいは不振であるという評価が多いようです。
コスアールエックスはじめ米国市場で存在感を高める新興ブランド
中小・新興ブランドの進出状況をみていくと、2010年代に米国市場進出に成功したのがドクタージャルト(Dr.Jart+)やミシャ(MISSHA)、そして前述のコスアールエックスです。特にコスアールエックスは2017年にアルタの主要店舗に入店。2019年には1,000店舗にまで商品納入を拡大しています。また2025年には、米小売大手のターゲット(Target)の売場1,600店舗に入店することも報じられています。
しかしコスアールエックスは、米国に進出する韓国の新興ブランドが増えるにつれ、その成長はやや鈍化しているようにもみえます。売上ベースでは、2021年54%、2022年66%、2023年138%と急成長を遂げてきましたが、2024年には20%増の成長にとどまりました。なおコスアールエックスは2023年10月にアモーレパシフィックの完全子会社となっています。
コスアールエックスに続き米国市場でプレゼンスを高めている新興ブランドとしては、魔女工場(manyo)、SKIN1004、アヌア(Anua)、VTコスメティクス(VT Cosmetics)などがあります。
魔女工場は当初、アマゾンでの商品販売から米国進出をスタートさせました。主要商品である「ピュアクレンジングオイル」が販売ランキングにランクインすると、徐々に認知度が拡大。その後、2024年7月にアルタの実店舗470店、小売大手コストコ300店舗に出店が決定。オフラインでも商品が好評を得て、2025年にはコストコでの売場数を400店舗に拡大するとともに、ターゲットの店舗の9割となる1,788店舗にも新規入店する予定です。
SKIN1004もアマゾンなどオンラインチャネルから商品の流通をスタートさせました。同ブランドの2024年の売上は2,800億ウォン(約308億円)ですが、その98%は海外で発生していて、主な市場は米国、中国、日本、東南アジアです。SKIN1004は国というよりも言語ベースでマーケティング対象を絞っていて、優先したのは英語圏かつオンラインでの商品販売です。米国とほとんどの欧州諸国、シンガポール、インドネシア、マレーシアなどは英語を使用するため、同時にマーケティングが可能になるという算段があったといいます。
SKIN1004の商品は、TikTokやYouTubeなどSNSを通じて紹介する過程で認知度が急拡大しました。アマゾンなどオンラインチャネルでの販売が広がるにつれ、オフラインチャネルでも引き合いが増加。米国では2024年7月にアルタの半数となる653店舗に入店が決定し、2025年初旬にはコストコ400店舗、ターゲット1,600店舗への入店に成功しています。
アヌア躍進のきっかけもオンライン販売にあります。2024年7月に開催された米アマゾン・プライムデーでは、主力商品である「ドクダミ77 スージングトナー」がトナー部門1位を獲得。次いで10月に開催された「アマゾン・セラーカンファレンス2024」では、年間売上および成果が優秀だったブランドを評価・表彰するアマゾントップブランドにも選定されました。また2024年7月には、TikTokショップの化粧品ランキング1位も記録しています。
アヌアはSNSマーケティングにも強みを持っています。2025年1月上旬時点でアヌアに関連したTikTok上のコンテンツ数は12万5,000個に達し、合計視聴数は24億PVを突破しています。
一方、VTコスメティクスはK-POPアイドルグループBTSをキャンペーンに採用し、韓国国内や日本で一気に認知度を獲得したスキンケアブランドです。主力であるマイクロニードル関連商品を中心に米国進出に拍車をかけ、2025年7月からコストコとアルタへの入店が予定されています。
米国で成功した韓国新興ブランドの共通点
米国における韓国新興ブランドの成功事例を総合すると、まずSNSを活用したオンラインチャネルでの販売拡大フェーズがあり、その後、大手小売店のオン/オフラインチャネルに販路を拡大するという共通点があります。アヌアの関係者は「当初はオフラインチャネルへの入店を断られていたが、オンラインで話題になると逆に小売店から声がかかるようになった」と米国市場での販路拡大の経緯について説明しています。
また魔女工場やアヌアは、インフルエンサーを招いて商品を紹介するイベントを度々開催しています。インフルエンサーとのオフラインでの接点がオンライン上でのUGC(ユーザー生成コンテンツ)増加につながり、さらにオフラインチャネル開拓へとつながるというプロセスです。
近年、韓国ブランドの海外進出を支援するサービスも広がっています。韓国最大のビューティプラットフォームファへ(Hwahae)は、2024年後半に英語版を正式にローンチし、製品情報やレビュー、成分情報などを英語で提供することで、Kビューティの認知拡大を推進しています。
また、米国での販路開拓や広報活動を総合的に支援する企業も存在します。ランディングインターナショナル(Landing International)は、これまでに400以上の韓国ブランドの海外展開を後押ししてきており、コスアールエックスがアルタと取引を開始した際にも関わっています。韓国IT大手カカオ出身者らが設立したスタートアップ フィーチャリング(featuring)は2024年、インフルエンサー活用を支援するマーケティングパッケージを発表。自社開発のAIを活用し、現地インフルエンサーの効率的な発掘やマーケティングキャンペーンの自動化などを支援しています。
政府機関のKOTRA(大韓貿易投資振興公社)やMOTIE(韓国産業通商資源部)も海外展示会やFDA登録支援などを行い、KOTRAでは、K-Beauty流通網テストマーケティング、バイヤーマッチングなどさまざまな事業を通じて、米国進出を目指すブランドをサポートしています。
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